インターネット取引の普及、最近のアベノミクス相場もあり、株式の個人投資家の裾野は広がっている。しかし、厳しい相場の世界で継続的に利益をあげ、ましてそれで生活していくのは至難のわざだ。上手裕さん(志木市在住)は、証券関係などで勤務した後、独立し、現在は株式投資で身を立てる、専業トレーダーだ。一般投資家向けにノウハウを教える投資塾も主宰している。株が上手になるには、とにかく勉強して技術を磨くことだと、上手さんは言う。
株で生活できる個人投資家は1%
―現状は株で生活されているのですか。
上手 そうです。全然問題ありません。
―株で継続して利益を出せるのは珍しいケースと聞きますが。
上手 多分個人投資家で、株で食えている人は1%もいないでしょうね。
―一日の生活は。
上手 だいたい8時から3時半くらいまではパソコンの前に張り付いています。まず起きて日経新聞を読み。8時15分くらいに「株探」というサイトで今日の材料を見ます。寄り付き前の気配も見て、今日どういう銘柄が動くかをチェック。9時半までは普通はトレードはしないです。9時半頃に動きが固まった段階でトレードを開始。だいたい午前で終わり。午後は流して、2時半から3時は動くので見ています。この時間帯は、翌日動く銘柄が見えてきたりします。大引けにかけて上がる銘柄は次の日も上がる可能性が高いのです。
―市場が終わった後は。
上手 3時半くらいから散歩をして、7時頃まで買い物に行ったり。7時からは10時頃まで、IR発表などから明日動きそうな銘柄の調査をします。8時間労働でしょうか。
デイトレードはリスクが小さい
―どのような投資手法ですか。
上手 自己紹介では、小型成長株発掘が表芸で、テクニカル分析と空売りが余技と説明しています。
―上手さんの強みは何と言ったらよいですか。
上手 私は、情報収集力と思います。それが差別化要因です。テクニカル手法は、選んだ銘柄を判定する方法です。確かにテクニカルでその銘柄のことはある程度わかるのですが、全銘柄を見ることはできませんので。成長株は、いろいろな情報を論理的に分析して判断するわけで、1社の成長株を選ぶために50社を調べています。
―デイトレードですか。
上手 基本はデイトレードです。
―投資手法としては中長期で保有するべきだとの説もありますが。
上手 それは間違いです。自分の優位性を確立する方法は、リスクを下げることです。長期保有説は、短期的判断は難しいので、時間軸に移せばリスクが減るという理屈です。成長株は、会社の実績が四半期ごとによくなるので、四半期ごとに株価も上がっていくはずだと。それはうそです。なぜなら、買って下がった株を持っていても、会社の業績がよくなるからそのうち上がるというなら、その株を売って今すぐ上がる株を買えばよいわけです。長期で持てという人は株がわかっていないのです。そういうことを言う人は、実際にトレードをしない単なる評論家です。プロの評論家なら、明日上がる株を出してください。出せますか。私は出せます。
―デイトレードはリスクが小さいといえますか。
上手 株を買って、ニューヨーク相場が暴落すれば明日は下げます。デイトレードのよいところは、リスクを持たないことです。個人投資家が信用取引で買って持ち越すのはリスクの最たるものです。一番リスクの少ないのは、松井証券の一日信用。これは手数料もかかりませんから。どういう銘柄をやるかと言えば、日経新聞を見て好材料があり、それによって会社が利益を得るのが間違いない株を買えばよい。そうした株をデイトレしていれば、確実にもうかるわけです。それでもうかるなら、持ち越す必要はありません。
―ただ、デイトレは一日中張り付いていなければなりませんね。
上手 専業になります。ただ、非専業でも同じ考え方をすればよいのです。
―空売りが得意なのですか。
上手 株の玄人筋の多くは、売りが主です。昔から江戸時代の米相場で酒田五法を編み出した本間宗久や、山種さん(山崎種吉)も売りの相場師でした。売りというのは、勝負が早い。1日で10%下げるのはよくあることです。上げはゆっくり、下げは急激です。株で生き残っている人は、必ず売りの技術を使っているはず。売りの方がやる人が少ないことも有利な理由です。商売は何でもみんなと同じことをやっていてはもうからないです。
株は職人芸
―株式投資の面白さは。
上手 やはり、世の中の動きをつかまなければいけませんから、自然と世の中の動きがわかります。株が上がり、なぜその株が上がるのか調べたら、いろいろなことが関係してきます。
―一方で難しさは。
上手 株は職人芸です。技術そのものです。将棋のプロでも、漆職人でも、それなりのレベルまでいかないと、うまくいきません。「下手の横好き」とか、「生兵法は怪我の元」になってしまう。そういう勘違いをしがちなのが株です。たまたま買った株が上がりもうけたとか。
―なかなかもうけられない素人の投資家に対して言いたいことは。
上手 心の持ち方の問題です。株を職業と思えば、食えるようになります。みなさんは趣味とか余技、遊びなんです。それが仕事だと思ったら、とにかくお金をかせがなければいけないですから真剣になります。サラリーマンでも、今日は調子が悪いから会社に行くのをやめようというわけにはいきません。しかし株をやる人はみなそういうことをするわけです。たとえば、毎日相場を見ないとか、上がると思って買った株が下がっても放っておくとか。
株で生活するしかなければ、それに集中するよう生活を変えるしかありません。生活を変え、技術を上げ、トレード技術を確立するしかないです。しなければ市場からはじき出されます。
-損切りは必要だと。
上手 商売やっていて仕入れた商品が売れなくて在庫で寝ていたら、仕方なく処分してそのお金で新しい商品を仕入れます。買った株が下がっても、塩漬けにしている。それはもう仕事ではないわけです。単なる思考停止、逃避行動です。それは株式投資ではないです。仕事ならきちんと白黒つけなければいけません。この商品は売れない、ビジネスはもうからないと見切りをつけることです。
―一般の投資家はまだまだですね。
上手 投資家のレベルが、日本は低いです。私は日本が大好きで日本人でよかったと思いますが、日本は基本的にシロクロつけてはいけない社会です。日本では子供の頃から人と意見を戦わせたりする習慣がなく、お上に言われた通りやっていればよいと仕込まれています。論理的に考える習慣がついていない。感覚的に判断する。投資家としての教育を受けていないので、評論家がわけのわからないうそを言っても気が付かない。私もそれに50歳を過ぎてから気がつきました。
ネットの利用で激変した株式投資
―株式市場は昔と比べ変化していますか。
上手 大違いです。インターネットです。15年前は、朝新聞を読み、よい会社を見つけたら証券会社に電話して「これを買ってください」と。いくらで買えたかわからない。たまに証券会社から、あの株が面白いと電話がある。手数料は1.25%で固定。情報源は会社四季報、有価証券報告書、日経新聞、証券会社からの電話。
今は情報はネット上にいくらでもある。ネットを使えばプロのアナリストと同じ情報が手に入る。決算をはじめ会社の詳細情報。あとは大量保有報告書、空売りデータもある。これらは証券界ではあってはならないルールです。ファンドを運営していて5%以上持ったら報告しろとは、プロが手の内を明かすこと。そんなことは本来あり得ないのが、ライブドアショックなどで株価操作があったということで公開するようになった。これを使わない手はないです。
さらに、売り買いはいつでもできる。手数料は限りなくゼロに近い。もう一つ、昔と決定的に違うのは四半期決算で株価が動くようになったことです。
―個人投資家にとっては。
上手 個人投資家にチャンスが増えてきたのです。プロと互角に戦える。プロよりうまい人も大勢います。
パソコンによる株価分析のパイオニア
―おいくつですか。
上手 昭和24年生まれ。66歳です。
―株式投資はいつから。
上手 20歳、学生時代からです。大学紛争で大学がストライキの時に、本屋で株の本を見て面白そうだなと思ったのが最初です。清水一行のカッパブックスの本でした。
―就職は証券会社ですか。
上手 山一證券に入ったのですが、うそのような世界でした。配属された支店の営業幹部は仕事のし過ぎで目が見えなくなり、歩道の手すりえを伝いながら営業をしている。先輩が債券をお客に買ってもらったのですが、集金係のおばさんが、そのお金を貯蓄係のノルマ埋めに回しその先輩は架空売り上げということでくびに。そういうことが3、4件あり、イヤケがさし1年ほどで辞めました。
―その後は。
上手 日本橋にあった赤木屋プレイガイドの大家所有の証券会社、三洋証券の子会社と千代田生命との合弁の投資顧問会社、株の雑誌「投資手帖」と移りました。この時、30歳くらいでしょうか。私は、当時この年代では日本で一番株を知っているのではないかと思った。兜町にあった千代田書店(女優・山口果林の実家)にある株の本でめぼしいものは全部読みました。
その後、マイコンが伸びるというので、職安で探してマイコンの会社に入りました。アップルのパソコンを並行輸入して売っている販売店でした。一時はずいぶん売れたのですが、会社が傾いてきたので、アルバイトで自分のノウハウでパソコンによる株価分析のソフトを作りました。日本初のシステムです。一目均衡法も載せ、私が世の中に出したと言ってよいと思います。電電公社の回線で全国に配信。システムの宣伝のため『パソコンによる株式投資革命』という本も書きました。
―パソコンによる株価分析のパイオニアだったわけですね。
上手 ところがパソコン販売会社が倒産、そこからは私は世の中の表から消え、裏の人生に。ソフト会社、バイオの会社を経てデータ通信システム会社(今のDTS)に入社。ソフト開発の支援の仕事で、42歳から57歳までいました。
自立当初は大誤算
―株式投資は続けていたのですか。
上手 株はずっと続けていました。米国株を手がけ、オプションの勉強をし、日経225の先物が始まったので、それとオプションの売買を中心としていました。ライブドアショック(2006年)の時、オプションと先物でおおもうけした。そうなると、まともな仕事が馬鹿らしくなります。ここで辞めて、株の専業になりました。
―すぐに株で自立できたのですか。
上手 それが、大誤算でした。それまでのトレードが素人流で荒っぽかったのです。当時日経225の先物は、10円きざみで10円動くと1万円。ところが手数料が5000円で、買って損切りすると1万5000円がとぶ。自分のメンタルができていない状態で負け出すと、買った、下がった、投げた、投げた損を取り戻そうと次ぎに買う、ということで、資金は1日でなくなってしまいます。私の場合、一日で資金が半分になりました。会社を辞めた当初は、20万円くらいかせいで生活費にしようと思って始めたら、昼までに15万円負ける。
―どのように立て直したのですか。
上手 バイトをしながら株の勉強をする生活です。よく勉強しました。
その時出合ったのが、アメリカのテクニカル分析です。私の知識は本間罫線とか30年前の日本のテクニカル分析、酒田五法、一目均衡法で、そこで止まっていました。いろいろ勉強してみると、アメリカのテクニカル分析は質的に変わっていて、一番すごかったのはトレンド分析ですね。今でいうADX.DMIです。あとはストキャスト、MACD。これらは自分で先物のトレードをしながら、実験、シミュレーションもしましたし、使えるという手法を見つけたんです。それば今やっている4点セットです。ADXがメインで、あとはMACDとモメンタムとストキャス。私はそれを分足に適用する技術を開発しました。
その後に、ファンダメンタルが弱かったので、いろいろ勉強しました。要するにキャッシュフローですね。それから有価証券報告書を読むのと、大量保有報告書、IPOの目論見書を、細かく読み取ることで、いろいろなことがわかる。それを、パターン化します。
たとえば、TOPIX買いのパターンとか。公募、IPOのパターンも、よい会社か上場ゴールかは判定できるようになりました。
そういったことで食えるようになったということです。
―投資家として自立できるようになったのは、いつから。
上手 会社をやめて5年ぐらいからですね。これまで税務申告は10年くらいしています。
投資塾、電子書籍
―投資塾を開いているそうですが、自分のノウハウを公開しているわけですか。
上手 これは、自分の優位性を他に教えるということで矛盾しているわけですが、私は天理教の信者です。信仰にもとづいてやっているとも言えます。人助けでしょうか。
―amazonから電子書籍を出すのですか。
上手 推奨株リスト、銘柄調査ファイル、テクニカル手法の解説などを定期的に出版し始めています。
―これで相場が動くことになるかもしれないですね。
上手 それを狙ってはいないですが、結果的にはそうなる可能性があります。
山歩きが息抜き
―息抜きは何ですか。
上手 大学時代に旅行研究会というのに所属し、奥多摩、秩父など山歩きをしました。東京・神楽坂生まれなので、自然にびっくりしまして。山好きになりました。とにかく都会が好きでない。自然の中にいるとホットするのです。
今は、寄居の鐘撞堂山という山が私のホームグラウンドです。週末に時々登ります。里山なのでいろいろな道があり、それぞれを歩きます。地元の人しか知らない道もあり、面白いです。東上沿線はよいところです。
(取材2015年10月)
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