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身近なデータで景気を読む 景気探検家 宅森昭吉さん

長年金融機関でマーケットエコノミストを務めてきた宅森昭吉さんが退職し、「景気探検家」として独立した。宅森さんと言えば、「巨人が勝てば景気がよくなり、株も上がる」など、身近な出来事と景気との関係を捉える、ユニークな予測で知られる。宅森さんに、プロでなくても経済を先読みできる方法を教えていただいた。

宅森昭吉顔写真
宅森昭吉さん

宅森昭吉(たくもり・あきよし) 1957年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、三井銀行(現三井住友銀行)入行。同行調査部、市場営業部、さくら証券、さくら投信投資顧問などを経て、2002年三井住友アセットマネジメント(現三井住友DSアセットマネジメント)に、理事・チーフエコノミストを務める。2023年3月退職、「景気探検家」に。「景気ウォッチャー調査研究会」など政府の景気統計関係の研究会・委員会に多く参加、現在内閣府RDEI(地域別支出総合指数)検討委員会委員、日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」委員会委員など。景気循環学会常務理事。著書に『ジンクスで読む日本経済』など。

月次の経済指標予測の草分け

―これまでマーケットエコノミストを務められてきた。

宅森 市場にからんだ経済指標を予測する仕事です。1980年代の半ばに、当時三井銀行でしたが、ディーリングルームに所属して経済指標を予測しました。都市銀行では最初でした。

―月次の経済指標を予測するということですか。

宅森 しばらくすれば発表される統計をなぜ予測しなければならないのかという認識が一般でした。債券の先物価格を予測するのが私達の主な仕事でしたが、その時マクロ経済がどうなるかも見なければいけません。当時は不思議なことにアメリカの統計に注目しても日本の統計は無視されていた。営業の方から月次の指標予測を出せないかと言われ、やってもよいかなと。

―それ以来、ずっと経済指標予測を続けてこられた。

宅森 最初は銀行、それから銀行子会社の証券会社、投資顧問会社でずっとマーケットエコノミストを務め、指標の予測、発表された実際の指標の分析、お客さまのところに行っての説明、レポートによる情報発信とかを。そうした中で、お客さまやマスコミの方からの要望もあり、景気変動に関係するデータを集成した「当面の経済金融見通し」というレポートを毎月作成してきました。そこには通常の経済統計の他に、私が見つけた景気に関係のある身近な経済データも載せていました。

―今年で会社は退職されたのですね。

宅森 3月で退職しました。

―今「景気探検家」を名乗られている。

宅森 昔赤羽隆夫さん(元経済企画庁事務次官)が「景気探偵」を名乗っていらっしゃいました。私の場合、身近なデータを使い、世の中で知られていないような見方で景気を読んでいくという気持ちで、「景気探検家」を名乗らせていただきました。

―退職後も情報発信は続けているのですか。

宅森 レポートを引き続き出してくれないかとの声がありましたので、今でもnote(https://note.com/akiyoshitakumori/)で発表を続けています。経済指標の予測と身近な経済データと2本立てです。

将棋の最年少名人誕生

―宅森さんの注目する身近なデータとは、たとえばどんなものですか。

宅森 最近の例では、将棋の藤井聡太さんが名人になりました。過去最年少の名人の記録を更新すると、必ず景気は拡張(上昇)している。今の形の名人になって3人目が大山康晴さんなんですが、29歳4ヶ月、1952年7月16日で景気拡張局面、次に中原誠さんが24歳で最年少記録を更新しますがこの時も景気拡張局面、谷川浩司さんが21歳で更新しこれも景気拡張局面、今回の藤井さん(23年6月1日、20歳10ヶ月)も景気拡張局面だとすると、4人連続となります。ちなみに羽生善治さんが7冠を達成した時(96年2月)も拡張局面。若い人のうれしい記録が出たりすると世の中の雰囲気が結構違います。普段興味がない人でも記録が出て新聞に載ったりすると元気が出るのではないでしょうか。

将棋と景気データ
将棋の最年少名人誕生と景気

―そのような関係に注目し始めたきっかけは何だったのですか。

宅森 昔、債券のディーリングルームでわいわいやっていた。たとえば金利を先読みしなければいけないというのがミッションで、日銀の金融政策がいつ変更されるのか。今は金融政策決定会合の日付が決まっていますが、昔はいつやるかわからない。まず日銀総裁が東京にいない日はやらないだろう。それから過去の金利変更を見ると、仏滅の日にはない。また、ジャイアンツが勝つと株価が上がることが多く、景気もよさそうだ。変わったところから金利とか景気とか先読みできないだろうか、と始めたのが身近なデータを使うきっかけです。身近なデータも景気の予告信号みたいにチェックすることができるのではないかと。

―身近なデータの例を挙げていただけますか。

大河ドラマ

宅森 NHK大河ドラマで戦国武将の出世物語が描かれると視聴率も高く景気もよいという傾向があります。典型的なのは1996年の「秀吉」です。今年の「どうする家康」は同じく戦国武将ではありますが、視聴率は悪いです。全体の視聴率が落ちてきていることもあるし、それと今回は史実と異なり解釈できるギリギリのところで書いているのではという話もあります。ちょっとやり過ぎて、昔ながらの大河ドラマを愛する人が離れたのか。他に、昔ならドラマで純愛ものがはやると景気がいいとか、強い女性が主人公だと景気が悪いとか(「ショムニ」など)言えました。旦那さんの給料が上がらないので女性ががんばるということです。

もやしの消費

宅森 もやしの消費金額が増える時は節約料理が選ばれている。栄養価はそれなりにあるので、家計が苦しいとか野菜が高いとかの時主婦の節約料理としてもやしは使われる。今はもやし消費は落ち着いているので、これだけ物価が高いと言われながらも家計は持ちこたえている状態なのかなと。

もやしと景気データ
もやしの消費と景気

相撲の懸賞本数

宅森 大相撲の懸賞は企業でなければ出せません。企業の広告費の一部です。NHKで全国に流れるので結構PRになる。懸賞が少なくなると企業が広告費を絞っていることを表します。2カ月後に発表される経済産業省の広告業の売上高などのデータに先がけて判明する指標です。

相撲の懸賞と景気データ
相撲の懸賞と景気

CDの売り上げ

宅森 最近CDが売れなくなっていますが、発売から最初の1週間で50万枚を超えるCDが出ていると景気は大丈夫です。2014年4月の消費税引き上げの時に景気後退にならなかった。私は4月の末で景気は大丈夫と言ったのですが、当時嵐が4月にCD(「GUTS」)を出したら50万超えたんです。逆に2008年の不況の時は07、08年と50万枚超が一枚も出なかったんです。嵐など結構名曲も出ているのに関わらずお金がないから買えない。買えるようになったのは09年の3月の景気の谷のあたりで、ここから50万枚超えが出るんです。今ではダウンロードしてしまえば買わなくて済むわけですが、わざわざ高いお金でパッケージCDを買うということは余裕があるということです。今年になっても、上半期でSnow Man、King&Princeなどの曲も超えているので、悪いわけではないです。

野球

宅森 85年以降、阪神タイガースが優勝するとその年の株価が上昇していています。また日銀短観の業況判断DIの過去50年の変化幅の平均値を見ると(プラスは景気拡張、マイナスは景気下降を示す)、人気球団の阪神や巨人が優勝すると上昇し、他の4球団では悪化する。阪神ファンは日本人全体の8%、巨人は17%と、昔よりは低いがそれなりに人気があります。ファンが多いと景気にも影響する。今年も阪神は今のところ好調で株価も上がっています。

プロ野球と景気データ
プロ野球と景気

米大リーグで大谷翔平選手が活躍していますが、2023年は、1号ホームランから40号まで日本時間の当日に日本の株価が下落したのは8回だけ、今7割弱の確率で株が上がっています。

自殺者数

宅森 自殺者数は失業率とリンクしています(相関係数0.91)。だから失業率を予測するのに自殺者統計が参考になります。自殺の原因は様々ですが、経済要因がそれなりにあるのでかなり影響しているのです。最近は、コロナ禍で自殺者が増えていましたが、ようやく足元で減り始め失業率も低下に向かっています。

自殺者と失業者データ
自殺者数と景気

遺失届現金・拾得届現金

宅森 警視庁のデータで、遺失届現金と拾得届現金を見ると、コロナになり外出しなくなったので遺失届現金はガタッと減りましたが、どれだけ戻ってきたかの比率はコロナになってすごく上昇している。落とした現金の半分以上が戻ってきている。アベノミクスが始まった2013年以降拾得届比率は右肩上がりになっています。生活が苦しければ拾ったお金を使ってしまうかもしれないので、それだけ人々にゆとりが生まれているのかもしれません。

遺失現金と拾得届データ
遺失現金と拾得届

競馬の売り上げ

宅森 中央競馬の売得金は去年までは11年連続プラスでした。今年前半はマイナス傾向が続いていたが、少し戻しつつあり、7月までで前年比横ばい。年間では、12年連続プラスになるかもしれません。G1レースもマイナスが多かったが、6月以降プラスが続いています。

競馬の売り上げ
競馬の売り上げ
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曲がりくねった道の予告信号灯

―あらゆることが景気に関係しているということですね。

宅森 経済は人間のやることですから、すべてつながっているのです。いろいろなところからヒントが得られる。曲がりくねった道の予告信号灯のようなものです。信号が赤なら減速して事故が起こらないようにすればよい。ただすべてが正しい判断を示しているのでなく、減速したら先が青になっていることもタイミングによってはある。役に立たなかったから見るのをやめた方がいいのかというと、確率から言ってあった方が安全なわけです。かなりの確率で当たるものであれば、経済統計の難しい分析をしなくても、身近なところから景気の動きを先読みすることができるのではないでしょうか。

―身近なデータの場合、単なるジンクスというより、因果関係があるということでしょうか。

宅森 なんとなく偶然で一致したということではなく、一応理屈がつくということが大事かもしれませんね。「景気は気から」という原理を私は大事にしています。

―身近なデータから見て、結局今の景気はどう言ったらよいですか。

宅森 方向的には上向いてきている、というのが現状のようです。ただ、2019年までのコロナ禍前の水準よりはレベルは低い。インバウンドも前年比で大幅に増えていますが、19年に比べるとまだ低い。方向性で言えば景気拡張局面だが、絶対レベルはそれほどではない。そういう状況を身近なデータも表していると思います。

有用な「景気ウォッチャー調査」

―宅森さんは内閣府の「景気ウォッチャー調査」の作成に関わられたのですか。

宅森 はい。景気ウォッチャー調査は元々、経済企画庁(現内閣府)長官だった堺屋太一氏が景気の早期把握のための指標を開発するということで始まり、2000年から作成・公表されています。各地域ごと分野・業種ごと、たとえばコンビニの店員とかタクシーの運転手とか経済の前線にいる一定数の回答者を選び、景気がよくなっているかどうか(あるいはよいか、よくないか)を聞いて集計した統計です。結構パフォーマンスがよくて株価にも連動します。またこの調査は数字だけでなく、根拠となる理由も記入していただくのがミソです。身近なデータの要素はいっぱい入っています。私はこの調査が好きで、一番注目しています。

景気ウォッチャー調査
景気ウォッチャー調査

―現状はどうなのですか。

宅森 コロナ禍では緊急事態宣言が出ると数字が悪化したり、感染状況によってひどくジグザグしてしまいました。それでも足元では改善傾向にあり、この調査からも景気の拡張が裏付けられます。 

           (取材2023年8月)

  宅森さんの情報は https://note.com/akiyoshitakumori/

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