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処方箋は薬の引換券ではない 富士見・三芳薬剤師会理事  まい薬局富士見店 平野道夫さん

病院の近くにはほとんどの場合調剤薬局がある。私たちは、医師が書いた処方箋を持って薬局に行き、薬を受け取る。薬局の役割は、処方箋通りに薬を調剤することだけなのだろうか。こうした一般的慣行に異を唱えるのが、富士見市と三芳町に薬局を構えるまい薬局(株式会社舞薬局)の平野道夫さんだ。薬局の業務は、処方箋のチェックから患者の相談、製剤(薬局製剤)まで広範にわたり、平野さんは「処方箋は薬の引換券ではないし、薬局の入場券でもない」と訴える。

残薬、相互作用の調整

―平野さんは現状の薬局の在り方に異を唱えていらっしゃるのですね。

平野 薬局には調剤をメインとする調剤薬局、販売をメインとするドラッグストア、昔ながらの薬局があります。病院の近くに必ずある調剤薬局はすごく数が多く、薬の販売店ではドラッグストアが増えています。しかし、いずれも国や薬剤師会が進めている薬局の方策とは違い、本来あるべき姿とは異なっています。

―一般には調剤薬局はお医者さんが書いた処方箋通りに薬を出してくれるところと理解されていますが。

平野 本来、単なる調剤しかしない薬局は存在してはいけないのです。薬局の仕事は病院の下請けではありません。本来の薬局の目的は、地域の人々の健康を高めることであり、そのために三大業務というものが定められています。三大業務とは、処方箋調剤、医薬品販売、相談に伴う医薬品の製造を指します。

処方箋調剤、すなわち病院の処方箋を受け付けた場合には、それに基づいて調剤をすることになりますが、処方箋は単なる薬の引換券ではないのです。薬局薬剤師は処方箋の通りにただ薬を揃えるのではなく、その薬がその人の体に合っているかどうか等のチェックをしているのです。

―薬局で何をチェックするのですか。

平野 保険番号の確認もしますし、薬の規格の確認もします。これらの未記載や誤りも少なくありません。そして薬の飲み残し、いわゆる残薬の確認は薬局の義務になっています。ご自宅に飲まずに残っている薬の数を確認して、処方医に調整依頼をすることになります。
そして、とても大切なのが相互作用です。別の病院にも通っていると薬がいくつも重なることがあります。名前が違っても実は同じくすりであるとか、またお互いに作用がけんかをする薬もたくさんあります。どちらかを中止したり、相互作用のないくすりに変更したりもします。  さらに血液検査のデータを提出していただくことにより、腎臓・肝臓の機能、血圧、血糖値等を鑑みて、薬の増減について処方した医師に提案することも義務となっています。

―すると処方箋の多くが薬局で調整されるということですね。

平野 疑義照会は、かなり多いです。薬剤師が間に入ってチェックしないなら薬を渡せばよいだけで実に簡単です。患者さんもその方が早くて便利だと言う人もいます。しかしそれでは、患者さんは適切ではない薬を飲むことになる危険もあるわけですし、必要な薬が処方されていない場合すらあります。

―薬剤師の判断で処方箋の内容の変更はできない。

平野 処方箋の内容の変更は医師にしかできません。処方した医師が不在の時は責任ある別の医師に確認をとります。

地域にある相談の窓口が薬局

―本来の薬局の業務の相談・製造とは。

平野 地域にあるおくすりと健康の相談の窓口が薬局です。これは厚生労働省も昔から進めている政策です。たとえば、具合が悪くなり、頭痛があるとします。するとみなさんは病院で診てもらうか、ドラッグストア等で頭痛薬を買っているのではないでしょうか。しかし、それでよいのでしょうか。
病院で診てもらうのは正解だと思われますが、受診が不必要な場合もあります。今、医療財政が破綻寸前なのですから、必要な場合だけ病院に受診すべきですね。
さらに、頭が痛くても頭痛剤を飲まない方がよい場合もあるのです。ドラッグストア等で薬剤師が介在せず、薬の相談をしていないで購入する場合も多いのではないでしょうか。
そういうわけで、まず薬局で薬剤師に相談することが正しい方法といえます。薬剤師が詳しくお話を伺って薬を選んでさしあげるわけです。もし、適切な薬がなかったら、症状に合った薬を作ればよいわけです。そのような医薬品を薬局製剤といいます。

―それは医師の出す薬とは違う。

平野 病院に受診して処方箋を発行したわけではありませんから、保険の適用になりませんので医療財政節約にも貢献できます。一般の市販薬と別に、厚生労働省が定めた薬局製剤という医薬品レシピがあるのです。

薬局製剤の例 (まい薬局)

―やはり医師の受診が必要な場合もあるのではないですか。

平野 もちろんその通りです。したがって病状によっては、紹介状を書いて病院に行ってもらいます。これは受診勧奨という薬局の使命のひとつです。
また、頭が痛い原因から考えてそもそも薬が不要な場合もあります。その場合は適切な生活指導で十分となります。相談だけ受けてお帰りになって、その後「おかげさまで良くなった」と感謝されることも多いです。

―血液検査も薬局でできるのですか。

平野 まだ、糖尿病とコレステロールの検査に限られていますが、数年前から認められています。糖尿病を例にとれば、実は糖尿病患者さんの1/5しか病院に行っていない現実があります。残りの4/5は、病院に行くことを躊躇したり、または病気に気がついていないわけです。薬剤師と相談して、疑いがある場合に血液検査すれば糖尿病予備軍を初期の段階で見つけることができます。計測所要時間は6分間です。

利益追求で本来の使命を忘れる

―ドラッグストアは薬剤師がいなくてもくすりの販売できるのですか。

平野 薬剤師がいなくてもある程度のくすりは販売できますが、要指導医薬品、及び第一類OTC医薬品と呼ばれるカウンターの内側や調剤室に置いてあるような薬は薬剤師がいないと販売はできません。薬剤師がいなくてもドラッグストアの営業は成立しますが、薬局として登録しているドラッグストアには時間帯にもよりますが薬剤師は必ずいます。

―企業経営となれば収益が優先されます。

平野 保健医療制度を利用して利益追求にだけに走ってしまう人がトップにいると、黒字を出すこと自体が目的になり薬局の本来の使命を忘れてしまいかねません。情けないことです・・・

「あなたの街のくすり箱」

―まい薬局は、本来の薬局の在り方を追求し、実践されているわけですね。

平野 私の薬局のスローガンは「あなたの街のくすり箱」です。おくすりや健康のことでなにかあったらいつでもくすり箱を開けてください、私たちがお手伝いしますという意味です。

―それには手間もかかり、薬剤師の能力も問われます。

平野 毎日が勉強ですので、休日も薬剤師は勉強しています。

―平野さんは薬剤師の教育にも携わっているのですか。

平野 学術部理事として、薬剤師教育はもちろん、大学等でも学生たちの指導を行っています。

平野さん

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今回の取材で見えてきたのは、本来の街の薬局の在り方と、私たちの薬局の上手な活用の仕方だった。薬局に処方箋を持っていった際、安心・安全な調剤のためにさまざまなことが薬局内で行われていることを知ることができた。くれぐれも「早くしてくれ」などとせかしてはいけないということだろう。
また、処方箋がなくても薬の相談や健康の相談にいつでも薬剤師が親身にのってくれることも再認識できた。

(取材2020年1月)

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