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こわい不整脈、こわくない不整脈 イムス富士見総合病院  志貴祐一郎医師

心臓の病気の中でも不整脈は最も身近だ。どのような不整脈が危険で、どう対処すればよいのか。富士見市のイムス富士見総合病院循環器科で不整脈を専門とする志貴祐一郎医師は、「不整脈との付き合い方」と題して講演、徐脈、頻脈を含め、いろいろな不整脈について詳しく説明した。志貴先生は、こわい不整脈とこわくない不整脈があり、こわい不整脈は①極端な徐脈(脈拍数30回/分以下、5秒以上の心停止)②極端な頻脈(200回以上、心室細動)③心臓病のある人の心室頻拍⑤急に失神する場合、などであると述べた。

以下はその概要である。

不整脈は、規則的に動いていた心臓が、リズムが乱れることの総称だ。その中には、本当にこわいものから大丈夫なものまでいろいろある。

 心臓は心房(左心房、右心房)、心室(左心室、右心室)からなり、ポンプの役割  

心臓は胸の真ん中にある、こぶしより一回りくらい大きい臓器。役割はポンプの機能で全身に血液を送り出す。構造は4つの部屋から成り、上の2つが心房(左心房、右心房)、下の2つが心室(左心室、右心室)。心房は補助的な役割をしており、メインは心室。心室が動くことで血液を送る。心臓は1分に70回くらい動いており、1日10万回、一生に換算すると30億回、2億3千万リットルの血液を循環させている。

血液を送るのに2つの経路がある。全身に血液を送る(体循環)のと、肺に送り出すルート(肺循環)。体循環は左心室から大動脈を通り、いろいろな臓器に行く。臓器に酸素を与え静脈を通り右心室から肺に入る。肺で酸素をもらいまた体循環に戻っていく。

体循環、肺循環は基本的に一方通行で流れないと悪さをする。そのため心臓には逆流防止のための4つの弁がついている。弁膜症は4つの弁のどれかが閉まりが悪くなったり、開かなくなったりする病気だ。

心臓は筋肉の塊だ。筋肉が収縮することで心臓として働く。ただ筋肉だけでは動かず、筋肉に電気が流れることで収縮を繰り返す。電気の発電所が右心房の先の洞結節というところ。そこでできた電気が右心房、左心房を流れ、関所(房室結節)に行き、通っていいよという電気だけ下の心室に流れる。心電図はこの電気の流れを記録したもの。電気の流れに異常があると、心臓の病気として診断される。

不整脈の症状:動悸、目の前が急に暗くなる、意識が飛びそうになる

普段は脈など気にしない。心臓は規則正しく動いており、体がそれに慣れていて感じない。不整脈などを起こしてリズムが乱れると変だと感じる。脈を意識し出すのが動悸だ。健康な人でも走ったり、酒を飲んだりすると動悸が起きるがそれは心配ない。これに対し日常の軽い動作をしているだけで感じる動悸は異常だ。鼓動が強くなったように感じるとか、不規則になったように感じるとか、このような症状は不整脈の可能性がある。動悸がどんな時に出るか、どのように感じるかが、診断や治療の助けになる。

不整脈の2つ目の症状がめまい・失神。めまいは心臓に限らずいろいろな病気で起きる。目の前や天井がグルグル回る、足がふらつくなどは、心臓ではないことが多い。逆に心臓である可能性が高いのは、目の前が急に暗くなる、意識が飛びそうになる、など。実際に意識を失うのは、非常に危険な不整脈が隠れていることが多い。ただ、不整脈は自覚症状がなく、検診で偶然見つかる場合もある。

不整脈の検査:心電図、ホルタ―心電図、植込み型心電図、超音波検査(心エコー)

心電図は、不整脈の代表的な検査だ。両手両足と胸に6個くらいの電極をつけて、心臓を流れる電気を調べる。ただ、検査は数十秒くらいなので、ずっと症状が出るタイプならわかるが、発作的に出るタイプはわからない。心電図のもっと長いバージョンがホルタ―心電図で、これをつけると24時間分の心電図がわかる。普段の生活をしながら不整脈の診断をする。激しくなければ運動も可能だが、お風呂には入れない。携帯型心電計は電気屋さんに売っており、症状がある時に胸に当てると心電図を記録できる。

他に、運動負荷心電図は運動をすることで不整脈を起こして検査する。運動で誘発される不整脈や狭心症の診断に有用だ。植込み型心電図は、マッチ棒2,3本分くらいのサイズの心電計を胸の脂肪に埋め込む。電池が2、3年もつので、その間ずっと記録される。まれにしか起きない症状の診断に使えるが、入れるのに切開が必要。

心臓の超音波検査(心エコー)は、心臓の形、大きさ、動き、構造から病気を探るのに非常に有用だ。不整脈には心臓自体に病気が隠れていることもある。血液検査も不整脈だけではないが、様々な異常を発見できる。不整脈の場合、ナトリウムとかカリウムのミネラルをチェックする。不整脈に別の病気が隠れている代表が甲状腺の病気で、血液でホルモンをチェックする。不整脈の薬は肝臓や腎臓に働きかけて作用するのがほとんどなので、肝臓・腎臓の悪い方は量を減らさなければいけない。それを見極めるのに使ったりもする。

一番不整脈に特化した検査が電気生理学検査。心臓内に電極のついたカテーテルを何本か入れて、あの手この手で心臓を刺激してわざと不整脈を起こす。最終関門の検査で、これでわからない不整脈は仕様がない。

脈拍回数は50~100回が正常の目安

不整脈は心拍が乱れる病気だが、いろいろな種類がある。本当にこわい不整脈はその中の一部で、きちんと対応すれば基本的にはこわくない。

脈を測るには、親指側の血管(橈=とう骨動脈)を真ん中3本の指を並べて触れる。15秒ほど測って4倍すれば分当たりの回数がわかる。回数は50~100回が正常。脈拍は幅があり、この間であればおおむね正常だ。また100回を超えたり、50回を下回ったら異常かというと必ずしもそうではない。緊張したり運動すれば上がるし、逆に普段運動している人が50より低いこともよくある。目安としてこれくらいが正常と思っていただければよい。

不整脈は年をとると増えてくる。年齢が重なると血管が硬くなる。動脈硬化が進むと血圧が上がる。血圧が高いと、左心室ががんばって血液を送り出している状況で、左心室が分厚くなる。すると期外収縮というタイプの不整脈が出てくる。期外収縮だけなら問題はないが進んでくると心房細動を起こしてしまう。また動脈硬化が進むと血管がボロボロになるので心筋梗塞という命に関わる病気を起こす。さらに不整脈でも一番こわい心室頻拍・心室細動を起こしてしまう。加齢で心臓の電気の経路が老朽化し、流れが悪くなり、脈が遅くなる徐脈性不整脈を起こすことがある。

なぜ不整脈がこわいのか。一言で言えば、意識を失う、心臓が止まる不整脈があるからだ。心臓が止まるには2つのパターンがあり、1つは電気の信号が伝わらなくなる、もう1つは心臓が痙攣する。心拍数が規則的に速くなっても問題はないが、不整脈で速くなるとポンプとして機能しなくなる。

不整脈は大きく、脈が1分間に50回以下の、遅くなる徐脈性不整脈と、100回以上の、頻脈性不整脈に分けられる。

洞結節あるいは房室結節の異常に由来する徐脈性不整脈

徐脈性不整脈は、洞結節あるいは房室結節の異常に由来するものがほとんどだ。

洞結節は心臓の発電所なので、この機能が悪くなると脈がゆっくりとなったり、止まったりする。突然脈が止まるきまぐれ型はいつ起こるかわからないので、ホルター心電図で発見したり、それでもわからなければ体に埋め込んだり、生理学的検査をする。一番の原因は加齢だ。洞結節の機能が悪くなると薬で回復させたり、手術で取り換えることができない。なので、ペースメーカーという機械を体に入れて、人工的に発電してあげなければいけない。

徐脈性不整脈の2つ目が房室結節に由来するもの。ここが悪くなると、下の部屋まで電気が流れなくなる。突然心臓が止まり、突然死したりすることもあるこわい不整脈。治療は、洞結節の場合と同じでペースメーカーを入れて、人工的に電気を送る。

代表的な頻脈性不整脈 心房細動

次に脈が速くなるタイプの不整脈には、心房に由来するものと心室に由来するものがある。どっちに由来するかでこわさが全く違う。心房に由来するものは基本的にはこわくない。心室に由来するものは命に関わる。

心房に由来する代表的な不整脈が心房細動だ。心房が1分間に300回から600回くらいブルブルと痙攣する。これがそのまま心室に伝われば死んでしまうので、房室結節が振り分け心室の脈拍が上がらないようにしているので命に関わることは少ない。年齢が上がると心房細動が起きやすく、70歳以上で3%とも言われ最も遭遇しやすい不整脈だ。

心房細動のうち、発作的に出て7日以内に自然に止まるのが発作性心房細動、7日を超えるが電気ショックを打てば止まるのは持続性、電気ショックでも止まらないのが慢性と呼ぶ。どの段階かによって治療が変わる。

心房細動の場合、脈拍は150回くらいまでは上がってしまう。動悸、めまい、疲れやすいなどの症状が出る。ただ、自覚症状のない人も大勢いる。持続性や慢性の場合、体が心房細動の不規則なリズムに慣れてしまい、感じないで、検査で見つかる人が多い。

心房細動をどう治療するか。薬でやる方法と薬以外の方法がある。

薬は心房細動自体を止めて正常な脈を維持するタイプをリズムコントロールと呼ぶ。もう1つが、心房細動はそのままで脈拍だけ上がらないようにしてあげる(レートコントロール)。リズムコントロールが望ましくしょうがないからレートコントロールをするのかと言うと、治療という意味で優劣はなく変わりがない。心房細動のタイプなどで選び、併用することもある。

心房細動は、何がこわいかと言うと、不整脈から脳梗塞を起こすことがある。長嶋茂雄監督で有名になった。心房が震えているので血液がきれいに流れず、塊ができて、飛んでいくと悪さをする。その予防をしっかりしなければならず、抗凝固療法、血をサラサラにする薬を飲んでいただく。現在では心房細動になって血栓ができやすい方とできにくい方がある程度わかってきており、チャッズスコアと呼び、①心不全(1)、②高血圧(1)、③75歳以上(1)、④糖尿病(1)、⑤脳梗塞の既往(2)で計算。1点以上の人は何もしないと年間に数%の人が脳梗塞になるので服薬をおすすめし、2点以上の方は必須。

非薬物治療には、カテーテルアブレーションという手術がある。心房細動の原因となる場所がある程度判明しており、非常に有効だ。薬の治療はあくまで発作や症状を抑えるだけなので、飲むのを止めると当然出る。一方カテーテルアブレーションは根本の原因の場所をたたくので根治する。薬を飲む必要がなくなる。今はカテーテルアブレーションによる治療が主流になってきている。イムス富士見総合病院でも年間150件ほどの例がある。

心房粗動は、心房細動の親戚で、違いは痙攣の数が半分程度。症状も治療もほぼ同じ。心房に由来する3つ目が発作性上室頻脈。比較的若く、正常と思われる心臓に起きることの多い不整脈で、突然動悸がして突然止まる。心房細動のように脈がバラバラになることはなく一定だ。治療法は薬とカテーテルがあるが、カテーテル治療が心房細動以上に確立されており、カテーテルでほぼ治る。

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心室に由来する頻脈は、こわい不整脈

次に心室に由来する頻脈は、こわい不整脈だ。下の部屋だけで心臓が動くと、いびつに動き、ポンプとしての機能がうまく果たせない。血圧が下がったり、最悪の場合失神したり。1つが心室頻脈。心拍数は150回から200回。

心臓の病気のない方に起こる特発性というタイプもあるが、多いのは心筋梗塞とか弁膜症とか病気があるところにこれが起きる。命にかかわる。症状は、動悸や気分不快などがあるが、感じなくて急にパタンといく場合もある。

治療は薬やカテーテルがあるが、完全に予防できない。そこで起きた時に何とかしてあげる手だてが必要になる。それが埋め込み型除細動器(ICD)で、電気ショックをかけてあげる。町中にあるAEDの小型版だ。AEDが近くにないところに倒れても、これを入れておけば四六時中心臓を見守り、不整脈が出ればショックを与えてくれる。

もう1つ心室に由来するのが、心室細動。これが不整脈で一番こわい。心室頻拍と同じく、洞結節の指令と無関係に勝手に興奮して、200回から500回くらい心室が動く。心室が痙攣すると、ポンプとしては機能しないので命に直結する。多くの場合、心筋梗塞が原因で起きる。

発見は心電図で異常を指摘されることが多い。事前にICDを入れておけば助かる。ただこれまで心臓に異常がない人が突然発症すると、突然死を抑えるのが難しい。

脈が飛ぶ不整脈は、期外収縮と呼ぶ。予想されるタイミングより早く収縮する。検診で指摘されることが多い。たいがいは心配がない。心房由来のものはまず大丈夫。心室由来の場合、一部に危険なものがある。その時は超音波で心臓の病気があるかどうか、ホルタ―心電図でどのくらい出ているかチェックする。一日に2万、3万回となると治療が必要になる。

不整脈の薬物治療

不整脈の治療は、薬と薬以外に分けられる。

薬物治療は昔から行われている。不整脈の薬はあくまで抑え込んでいるだけ。治すわけではない。やめれば出るので、症状がよくなってもやめないこと。

どこを標的にし、何を目的にするかで分かれるが、標的は心房・心室の筋肉に効くタイプと房室結節に効くタイプに分かれる。筋肉に効くタイプは、リズムコントロールといい、不整脈自体を止めようというもの。房室結節に効くのがレートコントロール、心拍数を抑えるもの。3番目は、血栓の発生を抑える薬。不整脈による2次的な病気の予防が目的。

だいたいこの3種類の薬を使う。不整脈の薬は20ほどあり、どれを使うかは医師の裁量に任されている部分がある。

3番目は血液をサラサラにする薬で、飲めば脳梗塞になるリスクは下げられるが、サラサラのため出血するリスクがあるので、場合によっては飲まないという選択もある。一昔前は心房細動で起きる脳梗塞の予防にアスピリン(バイアスピリン、バファリン)を使っていたが、今は効かないと言われている。

リード線のない新型ペースメーカー

非薬物治療は、①ペースメーカー、②植込み型除細動器(ICD)、③自動除細動器(AED)、④両心ペースメーカー、⑤カテーテルアブレーション、がある。

①のペースメーカーは脈が遅くなるタイプの不整脈に人工的に電気信号を送ってやる。②、③は心室頻拍・細動に電気ショックを与える。④の両心ペースメーカーは、心不全、心臓の弱った方を助けるためのもの。

ペースメーカーは、左の胸、鎖骨の下あたりに機械を入れる。本体から電線を静脈を通って心臓の中(心房と心室)まで伸ばし、電気を送る。数十年の歴史があるが、2年前から新しいタイプのペースメーカーができた(リードレスペースメーカー)。リード線がなく、心臓の中にカプセル状の装置を入れる。カテーテルで入れるので切開の必要がなく、古いタイプのように左腕の可動が制限されないという利点もある。埼玉県でも15施設くらいしか処置できず、私も資格を持っている。

不整脈の治療で代表がカテーテルアブレーションだ。心筋梗塞など血管系の心臓病の場合はカテーテルを手首の動脈から入れるが、不整脈の治療は股の静脈から挿す。心臓の中にカテーテルを入れ、50~60度の高周波の熱を使い、筋肉に火傷を作る。それで異常な電気が流れないようにして、不整脈を治療する。歴史は30年くらいだが、急速に普及し、今は主流だ。危険がないわけではないが、かなり安全。根治させるので、治せば薬を飲む必要がなくなる。150~250万円くらいかかるが、保険と高額医療費補助を使うと自己負担は9万円ほどで済む。

極端な徐脈(脈拍数30回/分以下、5秒以上の心停止)、極端な頻脈(200回以上、心室細動)はこわい

まとめると、こわい不整脈は①極端な徐脈(脈拍数30回/分以下、5秒以上の心停止)、②極端な頻脈(200回以上、心室細動)、③心臓病のある人の心室頻拍、⑤急に失神する、など。

こわくないのは、①期外収縮、徐脈で症状のないもの、②労作による頻脈、③徐々に早くなり徐々に治まる頻脈、④脈拍120回以下で規則的、⑤不安症状を契機に出現、など。

(本記事は、2019年12月26日、富士見市鶴瀬公民館「健康スマイル講座」における講演をまとめたものです)

 

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