見えにくい障害者 発達障害

自閉症など発達障害者は、身体障害者、知的障害者と違い、一見して健常者と変わらない。そのため、就労についても支援体制も未整備で、就職できなかったり、転離職を繰り返し、ひきこもり、ニート化するなど、社会問題を生んでいる。発達障害者の就労問題が専門の梅永雄二宇都宮大学教授に、実情と支援のあり方などについてうかがった。(取材2010年、梅永先生は2021年現在早稲田大学教授)

自閉症、アスペルガー症候群(広汎性発達障害)、および学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)とその周辺の障害

―発達障害とは。

梅永 発達障害の定義は昔と今で違います 昔は発達期に障害を持つ者という意味で、たとえばダウン症候群とか、脳性まひとか視覚聴覚障害でも発達期に障害があればそう呼んでいた。現在は5年前に制定された発達障害者支援法で、狭義にとらえ、自閉症、アスペルガー症候群(広汎性発達障害)、および学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)とその周辺の障害を発達障害といいます。

知的障害との違いは、知的障害は昔は知恵遅れと言っていましたが、IQが70より低い障害です。自閉症は知的障害を伴っている場合もありますが、そうでない人が多い。

―ということは、多くの発達障害者は障害者と認定されていないわけですか。

梅永 IQが高くて障害者手帳が取れない、いわゆるグレーゾーンの人たちが非常に多くいます。

自閉症の場合は、人と目が合わせられなかったり、変化をきらう

―発達障害の特徴は。

梅永 自閉症の場合は、人と目が合わせられなかったり、変化をきらう、ロッキングといって体を動かし続ける。アスペルガー症候群(自閉症で知的障害、言葉の遅れを伴わないもの)では、友達をほしいと思わないとか、作り方がわからないので浮いてしまうとか、相手の表情・感情を読めない、引きこもる、興味の範囲が偏る、図鑑とか電話帳とか時刻表を見るのが好き、靴の紐が結べないなど不器用、変化をきらい同じパターンがいい、しゃべり方が上から目線、生意気な感じの子もいる。人の気持ちがわからないのでしゃべり続ける、など。

―そういった特徴は知的レベルとか関係ないのですか。

梅永 アスペルガー症候群には、知的に非常に高い人、大学の研究者もいます。しかし、知的に低かろうが高かろうが対人関係がへたくそなんです。コミュケーションが一方通行になったり、独特のこだわりがあり、興味が偏る。そのため、知的レベルに問題のない発達障害を意味する広汎性発達障害という用語はなくしつつあります。米国のマニュアルでは2013年には自閉症スペクトラム障害という名前になることになっています。

―発達障害は元々どこに障害があるのですか。

脳機能障害

梅永 脳機能障害です。心の障害ではなく、生まれながらの障害です。精神障害は、生まれたときは健常な方が精神的なショックを受けて、うつ状態、統合失調症になる。発達障害は生まれてからずっとその障害が続きます。

昔は情緒障害と言われていたので、育て方によるとされましたが、そうではなく、お母さんの責任ではない。もし親の育て方の影響なら兄弟も同じになるはずですが、そうはならない。原因は三種混合など薬でなる子もいるといわれているし、妊娠、早産、臍の緒が巻きついたとかが原因の場合もあるといわれています。

生まれたとき、抱っこをいやがるとか他の子と違う反応をする。ぐるぐる回るものを見つめていたり、言葉を覚えるのが遅いとか。

生まれたとき、抱っこをいやがるとか他の子と違う反応をする。ぐるぐる回るものを見つめていたり、言葉を覚えるのが遅いとか。

―発達障害児は増えているのですか。

梅永 一つは、医師が診断ができるようになってきたことが大きい。小児科医 精神科医が意外と知らない。小児神経科医とか児童精神科でないと見えないですが、そういう専門家は日本に少ない。だから、「様子を見ましょう」とかですませてしまう。障害のしくみがだんだんわかってきて、発達障害という診断ができるようになり、広がってきたのです。

もう一つ、はっきりしたことはいえませんが、環境の影響ではないかとも言われている。昔は知的障害養護学校に行くとダウン症が多かったのですが、今は自閉症が半分以上です。米国では5大湖沿岸に自閉症が多いという報告があるのですが、環境が原因とする研究もあります。

―どのくらいの数がいるのでしょう。

梅永 昔自閉症が1万人に4、5人といわれていたんですが、今は英国では91人という調査があります。そのうち知的に高いアスペルガー症候群が70人。日本でも100人に1人と言われています。最新の情報では110人に一人という報告もあります。

特に就職が問題

―発達障害者の人たちはどのようなキャリアを送るのでしょう。

梅永 知的障害を伴う自閉症の場合は、今の特別支援学校(以前の養護学校)に進み、高等部を卒業するときに進路指導がなされ、特例子会社などに就職する子もいます。しかし、知的障害がないと普通学級に進み、いじめにあったり、不登校になったり、引きこもりになっている子もいる。そういう子どもたちへの支援が今は少ないんです。

―就職は難しいでしょうね。

梅永 特に就職が問題です。学校までは 転校させるなど配慮できますが、社会人になると特別に見てくれない。だから、「なんでこんなこともできないの」、となる。

―結局、就職できないでニートになってしまうということですか。

梅永 いじめ、虐待、非行、不登校、ニート、フリーターという、子どものときから社会適応のできない人たちに発達障害が多いことがわかってきました。ニートの4分の1は発達障害という調査がある。仕事についても定職につけない。ついても、コンビニ、ビデオショップ、ファミリーレストランの店員とか、そこでまたいじめに合う。今度は引きこもり、うつ状態になる。

本人が発達障害者で、私も一緒に研究会を立ち上げていた高森明さんという方が『漂流する発達障害の若者たち』(ぶどう社)という本を出しました。この方は今30代半ばですが、小さいときから不器用で体の一部にマヒがあるのではとか言われた。しかし、大学院も出ており、学力は高いので障害と認めてくれない。いろいろと苦労をし、仕事も定着しない。自分たちのことを知ってもらおうと、活動しています。この本で、この障害の実態がよくわかります。

営業など対人関係の仕事はまず厳しい

―彼らに合う仕事はないのですか。

梅永 営業など対人関係の仕事はまず厳しいです。一人でこつこつ出来る仕事ならついていく人もいます。たとえば陶芸。ほとんど人と接触せずにできる。あるいは、コンピューター関係の、一人で黙々とプログラムを書くとか。仕事とのマッチングが重要です。

―発達障害者支援法ができたそうですが、具体的支援は。

梅永 大きな枠だけで、各論にまだ入っていないんです。これから医療、教育、就労の支援、すべてやっていかなくてはいけないんです。教育では、まず小中学校の先生に研修を始めました。先生は発達障害についてあまりよく知らなかったんです。全国調査したら、養護学校でなく普通学級に6.3%いるということがわかってきた。

就労については、手帳が取れないので、国から企業に出る助成金が出ないし、また障害者の法定雇用に該当しない。ただ、知的に低ければ療育手帳を取る人もいるし、知的に高い場合でも精神障害者保健福祉手帳を取る人も増えてきました。名前が精神障害者なので抵抗がある人もいると思いますが。

―就職する際の行政面からの支援は。

梅永 まったくないわけでなく、支援法ができたので、診断を受けたら支援をしなければいけない。ただ、どういう支援をしたらよいかまだ難しい。ハローワークで対応できない場合、障害者職業センターの専門家にお願いする。するとジョブコーチと呼ばれる人がついてくれて、企業との話し合いをします。

―企業との間を仲介してくれる専門家の役割が重要なわけですね。

梅永 法定雇用率の制度があり、身体障害者は手と頭と目がしっかりしていれば雇いやすい部分がある。あとスロープやエレベーターをつければよい。知的障害も問題を起こさなければ、清掃とかシュレッダーとか、簡単な作業はできる。発達障害はみなよく知らないから、学歴も高校・大学を出ているから、他の人と同じようにできるだろうと思われちゃう。だけどできないから、いじめに合ったり、解雇されて、ひきこもってしまう。そこで専門家が間に入って、発達障害はこういう障害ですよ、そして本人を変えるのではなく、仕事の中身を変えてくれることによってうまくいく場合があると、企業に説明をする。今その段階です。

―仕事の中身を変えるとはどういうことですか。

梅永 埼玉のある製造業企業に発達障害の人が、40社に断られた後就職しました。彼女はこの職場で、数字やアルファベットも色でとらえる。声も色でみる。蛍光灯の高速点滅が見えてしまうので専用サングラスを着け、音が苦手なのでノイズキャンセリングヘッドフォン、いらいらしたときは特殊な器具に触る。ロッカーは一番はじ。真ん中では着替えられない。仕事場も壁に向かっている。刺激が少ないから。ポスターとか貼ってあると気になるので、はがしてもらう。こういったことを会社がしてくれるのが働ける理由です。

もう一人の事例は、栃木県のスチレンペーパーのメーカーで仕事をしている発達障害者がいます。そこでは、袋を型番、サイズでなく「スズメ」、「イチゴ」と名づけ区分。これを構造化と言います。本人でなく、職場の環境を変えれば仕事ができる。

私たちは企業に出向いて、「この人はこうだからこうしてくれませんか」、と言っている。それができないのは、障害者雇用の意識のない会社です。

―職場の同僚の配慮も大事ですね。

梅永 たとえばパッキングの仕事をする発達障害者がいて、Aのスーパーでは障害者がきらいなパートさんが、いつも「何やっているの、速くしなさい」と怒り、いつもいじめに合っていた。Bではパートさんがやさしく、うまくいっていた。職種、仕事内容だけでなく、全体の環境が問題となります。

発達障害者の優れた能力を生かす

―発達障害者の優れた能力を生かすという視点はありえないのでしょうか。

梅永 アメリカのシリコンバレーで働く人は4分の1が広汎性発達障害、NASA(航空宇宙局)は5割といわれています。ビル・ゲイツも自閉症ではないかと言われているそうです。アメリカでは能力にばらつきがあっても評価される。日本では集団主義の傾向があり、みんなと同じことをしなければいけない。できることとできないことがはずなのに、できないことがあるとおこられる。

―発達障害者を生かす会社もあるのですか。

梅永 発達障害だけの特例子会社は、これからです。デンマークでは知的に高い発達障害の人たちのための企業が立ち上がりました。日本でも、NTTが豊洲でNTTだいちという会社を作って、動き始めた。

親がいなくなった時、どうやって生活するか

―発達障害者にとって就労以外の問題は。

梅永 親がいるうちはいい。親がいなくなった時、どうやって生活するか。そういう意味では、居住、生活の問題の方が大きいです。犯罪に手を染めるか、ホームレスになる。1人になると、だまされやすい。新聞を6紙取った人がいます。本人が悪いのではない。周りが彼らを理解してやれば解決できるのに。そういうことをきちんと支援できる体制を作っていかないと。

それから異性関係です。彼らも、好きな人ができて結婚するかもしれない。結婚生活がうまくいかない。子どもが生まれても子育ては難しい。生まれた子どもに対して自分がされたような虐待をしてしまうかもしれない。それと友人関係、特に職場のいじめはひどい。

―支援体制はまだまだなのですか。

梅永 現状は、支援する専門家も少ないです。ハローワークに行っても、よく知らないし、障害者職業センターも対応が難しいし、発達障害者支援センターもなかなか就労までは手が回らない。

 ひきこもり対策の若者サポートステーションは発達障害に理解があります。また埼玉には「麦」という親の会があります。

―それでも以前よりは理解が進んでいるわけですね。

梅永 今後よくなるかというと、そうでもない。お母さん方がいやがるんです。うちの子は、そんな子ではないと。両親とも健康で学歴も高い。発達障害の可能性があると言うと、拒否される。学校は行ける、東大でも発達障害と診断されている学生さんがいる。しかし、就職できていない。研究はできますが。親は発達障害と思いたくない。そうなると、逆に子どもがかわいそう。たまたま就職がうまくいくこともあるが、営業とかにまわされると挫折する。

 身体障害、知的障害でないから、教育でがんばらせればなんとかなると考える気持ちはよくわかりますが、早めに意識を変えていただかないと事態は改善しません。

―梅永先生は元々は。

梅永 私は、大学卒業後、国の外郭団体の機関で障害者職業カウンセラーという現場の仕事を15年ほどやっていました。そこで自閉症は対人関係とか感覚が過敏などで就労が難しい問題を痛感し、大学院に進み、米国に留学、明星大学を経て宇都宮大に移りました。政府や自治体、親の会などで、発達障害者就労問題についてよくお話をさせていただいております。

(取材2010年、その後情報が変化している場合があります)

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