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でっちあげ

 少し古いが、久々にインパクトのある本を読んだ。福田ますみ著『でっちあげ』(新潮文庫)である。2003年、福岡市の小学校で男性教諭が児童をいじめ、背景に児童に米国人の血が混じっていることもあったなどとし、両親が損害賠償を求めて提訴した「殺人教師」事件を追ったノンフィクション作品である。大手新聞や週刊誌、テレビがこぞって教師を糾弾するなか、著者は独自の取材で冤罪を信じ、事の発端から裁判の終結まで一部始終を追ったのが本書である。
冤罪が生まれた要因には様々あるが、大きいのは「教師がいじめをした」という話が世論に受け入れやすいことであろう。子ども同士のいじめでも、事件が起きると、真っ先に教師や学校の責任が問われるのが風潮である。まして教師が手を下したとなれば非道の極致。マスコミは短絡的に飛びついて報じたであろう。
私もかつてマスコミに身を置いていたが、記者は正義感は強いが、多分に思い込みが混じっている人が多い。世論や社会通念にも引っ張られる。現実は複雑で、確かにいじめのある場合もあるだろうが、誤解や虚偽であることもあるだろう。ケースバイケースであり、真実がどこにあるかは克明な調査と、均衡のとれた判断力をもってしなければわからない。
本書の著者は、直観と粘り強い取材で、真実を明らかにしてくれた。かつて、「桶川ストーカー事件」で真犯人を探し出し、足利事件の冤罪を晴らした清水潔氏を思い起こさせるジャーナリストである。

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