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過重な残業で「燃え尽きる」教師の転職を支援 

今、学校の教師の自殺、過労死、精神疾患が増加している。教師の働き方改革を唱える近未来教育変革研究所の藤井秀一(ひでかず)所長は、多くの教師は「燃え尽き症候群」の状況にあり、背景には押しつけられた過重な仕事量があるとする。藤井所長は「教師の天職相談室」を掲げ病んだ教師を救うために転職を支援している。就職の成功にはまず自己の掘り起こしが必要という。

「教師の天職相談室」

藤井秀一所長(川越市の国際ブリッジ学院で)

-藤井さんは、教師の転職支援をしているのですか。

藤井 私は、近未来教育変革研究所というオフィス名で、一つは先生個人向けの転職・再就職支援・カウンセリング(「教師の天職相談室」)など、もう一つは学校法人を相手とする業務改善指導などを行っています。

-先生個人向けとは具体的にどのような内容ですか。

藤井 どうしても仕事がうまくいかないとか、パワハラとかいじめとか、倒産、介護とか、 様々な事情で転職をしたいという人に向け、講座とか個人コンサルです。 

-どうしてそのような仕事をされるように。

藤井 私自身が1991年から2011年まで都内の私立高校に勤め、学校改革に取り組んでいました。退職して学校支援ができる会社に入りたいと思ったのですが、そういう会社がなくて、やむを得ず自分でオフィスを作り独立しました。その後あちこちの県教育委員会、教育団体の仕事を手伝うようになりましたが、行く先々で、先生方の自殺、過労死、精神疾患による休職がすごく多いことを実感しました。最初は学校の改革とか研修とかを主に支援するつもりだったのですが、先生個人が何のサポートも受けていない、政府も学校も考えていないということで、2014年からは先生個人のサポートをメインに切り換えました。

公立の小中高で毎年5千人が精神疾患で休職

-問題を抱えた先生はそんなに増えているのでしょうか。

 はっきり数字で出ているのは、公立の小中高で平成19年度以降、毎年5千人が精神疾患で休職しているとされています。公立の先生はざっと100万人くらいですので、結構な比率です。保育園、幼稚園、私立学校、専門学校、大学も含めれば2万人くらいはいるのではないでしょうか。

-教員の志望者が減少しているという話もあります。

藤井 報われない仕事だというのがバレテしまったので、なりたい人が減っているわけです。

背景はおカネではなく大幅に増えた残業

-背景には何があるのでしょうか。

藤井 報道などでは教師の残業を認めない給特法(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)が諸悪の根源だと言われていますが、私はそこが問題ではないと思っています。確かに最初から残業代なしで給料月額の4%を調整額が支払われる、定額で何時間でも働かせられる仕組みになっている。これもおかしな法律ですが、カネだけの話ではなく、馬鹿みたいに増えた残業の中身は何なのか話さなければいけません。

私は会う人みんなに、だったら正当に計算されてもっとおカネがもらえたら今の残業時間を許容するのですかと聞きます。できるわけがありません。私のクライアントで残業が一番多い方は月140時間を超えていた。過労死する寸前です。別の方は初めて会った次の日の朝警察から電話が来て「昨日○○さんと会っていましたね。今朝亡くなりました」。まさかと思いましたが。こういう方がいっぱいいる。月120時間くらいなら、どの学校でも必ずいると思います。

政府が下ろしてくる仕事 いじめ・虐待関連、キャリアパスポート

-残業が増えている原因は何ですか。

藤井 政府と文部科学省が後出しで下ろしてくる仕事がどんどん増えています。特にいじめと虐待関連の法律が厳格化され、何かあれば学校は全部報告しなければならない。担任が書いて上司がチェックし管理職がチェックしてステップを踏むだけでも3、4日かかる。一番直近の例だとキャリアパスポートというのがあります。学校をまたいで児童生徒一人一人にキャリアの蓄積を記録させる、将来の就職に向けた試みではあるが、ただやれというだけで様式すらない。文科省お得意の丸投げで学校現場は混乱するのが当たり前です。古くて役にたたなくなった仕組みは残っているのにそこに新しいものを次から次へと上乗せされていく。物理的に時間が足りない。

-いじめ問題が大きく報道され、学校が悪者にされることが多いことは先生の仕事を増やしますね。

藤井 マスコミはいつも学校を悪者にして騒ぎますが、それが仕事なのでしょう。いじめの件数が増えたのはいじめに関する法律が変わったからです。どんな微細な案件でも全部報告しなければいけない。これも仕事を増やします。実数としては減っているのではないかと私は考えていますが、昔ならいじめと言わなくてもイレギュラーなものはすべていじめとして処理されるようになっている。

モンスターペアレント

-保護者の問題もあるのではないですか。

藤井 保護者も非常識な人が増えました。学校をサービス業みたいに見ていろいろ押しつけてくる。いわゆるモンスターペアレントですが、たとえば「うちの子は朝起きないので先生が電話して起こしてください」とか、制服がなく私服の学校だと「何を着ていけばいいですか」、「授業が終わった後しばらく預かっておいてくれ」、と親が親の仕事を果たしていない。学校に全部押しつける。それをごり押ししてくる親もいる。

-部活の問題はどうですか。

藤井 「部活DQN」(ドキューン)と言われる、部活のことしか頭にないこわれた教師が一定比率います。何でも部活優先、部活をやらない教師は悪いやつだと。そういう人に限って声が大きくて学校で実権を持っている。他の仕事で忙しい先生にも無理やり部活をさせる。でもこれは昔からあることです。

-仕事量の増加が根本にあるということですね。

藤井 昔はそんなにひどい残業はなかったです。私も教師をしていましたが、遅くとも8時くらいには帰れました。今は真夜中まで学校にいて自宅に戻って仕事をしても追いつかない状態です。何でも学校に押しつけるからです。

「燃え尽き症候群」からうつ病へ

-しわよせはどういう層に。

藤井 若い人は入ってすぐ、「こんなはずではなかった」と考えます。子ども達と向き合いたいから教師になったのに向き合う時間が奪われたまま、雑務雑務で一日が終わってしまう。

-藤井さんは「燃え尽き症候群」と表現されていますが。

藤井 キャリア上の定義があり、社会のため役にたち求められる仕事で、それをこなす能力もあるのに、やりたくないという領域です。一番危ない状況で、半年から1年のうちに適応障害とかうつ病に変化していきます。

-根本解決にはどうしたらよいのでしょうか。

藤井 文部科学省の行政を変えて、正しい教育システム、正しい雇われ方にしていくことです。現在の文科省は現場を知らず勉強しかできない人達の集まりだと思います。

休職が難しければいったん転職

-問題を抱えた先生に対する実際の相談、アドバイスのケースを教えていただけますか。

藤井 件数的に多いのが、業務量がこなせなくて自己否定に走っているケースです。私はいくらがんばっても仕事のできないダメな人間です、と。こういう方はたいていの場合、メールの頭に「死にたい」とか「消えたい」という言葉が入る。この場合、経済面など可能であれば休職していただく。それが難しいのであれば転職を考えていただく。環境の悪さからいったん逃げてもらう必要がある。まず心と体を治してもらわないと職場と向き合うことはできない。へたに向き合い続けたら殺されてしまいます。

-他のタイプは。

藤井 パワハラとか職場いじめが多いです。全体の相談の3割くらいでしょうか。パワハラはいろいろパターンがありますが、圧倒的に多いのは精神的攻撃ですね。ケース的には副校長とか教頭が関わっていることが多い。教育界の方が一般企業より陰湿、内容が悪質ですね。昔から「学校の常識は世間の非常識」とよく言われていましたけど、世の中が見えていないどうしようもない管理職がいます。ひどい人になると、「みんなが忙しい時に妊娠するな」とか口走る人もいる。

-パワハラにはどう対処するのですか。

藤井 厳しい処分が一番いい。徹底的に処分する。教育委員会が行います。それと社会常識を知らないので知らしめる必要があります。世の中ではパワハラと呼ぶのだと。パワハラの研修をしている教育委員会はあまりありません

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教師もしっかりと自分の掘り起こしをすれば様々な能力が身についている

-転職する場合のアドバイスは。

藤井 まず誤解を解いてもらう必要があります。会社に行っても教職の中身はわかってもらえず経験は通用しないから正社員として転職はできない、アルバイトしかないとあきらめてしまっている人がいる。決してそんなことはありません。学校の仕事は実はかなりマルチです。特に私立の先生方は生徒募集までやっていますから、ほとんど会社と変わらない。それも学校では様々な部署を横断するような動き方をしなければならない。実はしっかりと自分の掘り起こしをすれば様々な能力が身についているのです。

-どのように適職を探しますか。

藤井 まず自己掘り起こしを徹底してやってもらいます。私の場合は自分で作成した能力開発のワークがいくつかありますので、それを提供します。まず適職診断テストでどんな仕事が向いているのか。それからスタートワークで自分の中にどんな隠れた能力があるのかを掘り起こす。知識と能力と経験ですが、ほとんどの人は全体像が見えていません。自分を100%知ることから始める。これがないと方向性が決められない。冷静に客観的に自分をとらえ、さらに自分の願望とマッチングさせていく。その流れを必ず通っていただかないと、人生を誤ってしまう可能性があります。

-自分のキャリアに自信が持てない人も多いのではないでしょうか。

藤井 キャリアはみなさん職務経歴のことだと思っているけれどそうではありません キャリアは職業を主軸とした人生全体のとらえ方なので私生活、趣味とか個人的領域も含まれます。

塾が学校の先生を雇うか

-従来の常識だと教師の転職先なら塾の先生をまず考えそうです。

藤井 塾の先生を薦めている転職エ-ジェントもいますが、塾が学校の先生を雇うでしょうか。授業をやるなら学生のバイトでよい。そこに教師をやっていた気難しい人を正社員にしてわざわざ入れるか。じゃあどういう人なら雇ってもらえるか。学習塾の場合なら教室の運営ができる人。言い換えれば、生徒募集、集客のできる人。残念ですが、公立の先生は難しい、私学でかつ生徒募集を担当していた人なら可能性があると思いますが。

-転職によりそれまで抱えていた心の問題が改善するのでしょうか。

藤井 もちろん皆さん改善されています。ただ重度のうつ病で来られた方は転職してもなかなか難しい。うつ病になると、病気になるまでの期間の倍くらいの時間が治療に必要だという感触です。以前6年間うつ病に悩んでおられた先生がこられて、転職できたのですが出勤できなくなってしまった。会社は1年間待ってくれたが再出勤できず解雇になった。他の方は環境が改善され、しかもやりがいがあると事前にマッチングしていますから、入ってからこんなはずではなかったというのは私のクライアントさんではないです。

高齢者の再就職、再任用は生き地獄、ゼネラリストとしての道

-先生に限らず、定年を迎えた人、あるいは高齢者の就職についてアドバイスをいただけますか。

藤井 私のクライアントさんは校長先生もいますが、定年退職になったら再任用をお願いしようという方が多い。しかし私から見ると生き地獄を作るふるまいにしか見えません。狭隘な道を進んできて、その道をさらに2、3年延長しようと言うわけです。その間世の中どんどん進んでいくのに、あなたはその狭いあぜ道から抜け出さないでいいんですかと思います。まず自分の中に何が蓄積されているのかを知ってください、から入ります。

-サラリーマンや管理職で来た人はそのまま経験を活かしたいと考えるのも自然のようですが。

藤井 今までこういうことをやってきたからこういう流れでいいですね、と言いますが、延長戦なら現職の人にはかないません。現職は最前線で新しいもの、お客さまとも接している。過去の人がそこに出てきて役に立つかどうか。だったら、専門的領域は持っていたかもしれないが、それを支えるためにゼネラリストとしての能力も磨いてきているはずです。自分の中には専門ではないけれど様々な人育てに役立つ材料とか、会社育てに役立つ材料があるはず。それを困っている現場の人達に的確にアドバイスできるように整理しておくことはすごく大事です。

-ゼネラリストとして勝負した方がよいということですか。

藤井 定年過ぎた方をあえて雇うことになると、なぜ雇うのか、それを考えていない退職者の方が多いように思います。60歳を過ぎた方を雇うには会社は一定のリスクを背負うわけです。給料は安くはない。それでも来てくださいというのは、欲しいものは何か。秀でた専門領域があればよいですが、なくても、それは年の功です。現場の人達が解決できないことでも、あらゆる経験をしてきた、艱難辛苦をなめてきた年代の方だからアドバイスをいただけるに違いないと期待を持って雇うわけです。専門性はこれですと言われてもその人材はすでにいる。専門性で対処できない問題が出てきた時にどう解決すればよいかをアドバイスしていただきたい。

-実際の就職に結びつける手順を教えてください。

藤井 まず自己の掘り起こしを徹底して行っていただく。そして2種類の経歴書を作ります。一つは単なる年表。もう一つは専門分野・能力別の経歴書で、できれば4から5の分野で 直近まではこれをやっていた、その前はこれ、その前はこれ、と順に書く。すると積み上げてきた能力が一目瞭然になる。この専門分野別と時系列の経歴書作成が大事な作業になる。さらに今まで蓄積した能力を今後どのように活用したいのか いかに役に立てるかをしっかりアピールしてほしい。ご相談に見える年配の方は、ずっとこれをやってきたのでこの仕事でアルバイトとか探した方がよいですかと来ることが多い。そんなもったいないこと言わないで、相談役になってやるよくらいの気持ちで向き合ってほしい。

直接応募で売り込む

-応募の仕方は直接応募をお薦めですね。

藤井 シルバー人材センターとかハローワークとか間接応募で探しても、やりたいことにズバリヒットすることはめったにないでしょうし、たとえあっても時間いくらで安く買いたたかれてしまうことが多い。自分で会社を探して直接社長にコンタクトをとるのがよいでしょう。会社全体の役にたちます、あるいは経営者に対しあなたの夢を私がかなえます、という売り込み方。基本的に売り込みです。待っていたらダメです。

多様なビジネスを展開

-藤井さんは、転職支援以外にも多様なお仕事を展開されています。

藤井 私の今のビジネスの柱は以下のようになっています。

①先生個人の人生設計の支援 教師から民間企業への転職、休職からの復職、独立起業、副業と複業の構築などなど。今抱えている悩みを解消し、新しい人生を作り出すお手伝いをしています。

②先生向けの講座・セミナー・教員研修 

③教育講演・教育セミナー NPO法人日本プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー協会のビジネスパートナーとして自治体・教育委員会・私学団体・PTA団体などに教育関連の講話を提供しています。

シニア向け就職セミナー(富士見市にて)

④教師の私的な勉強会の顧問 先生方が私的に集まって開催している勉強会で顧問、講師を務めています。

⑤教育団体の運営顧問 日本語学校(国際ブリッジ学院)の校長職、私立学校の学事運営顧問、江東区教委の家庭教育学級の副委員長など。

⑥学生・生徒向けの進路ガイダンス

⑦NPO親心支援協会の運営 2014年に自分で立ち上げたNPOで副理事長を務め、不登校解決勉強会と子育てコーチングの2つの講座を展開しています。

⑧防衛省と自衛隊でキャリア開発支援 防衛省海上幕僚監部や各地の自衛隊基地において老後のキャリアに向けた下地作り開発講座の講師。

-これまでを振り返っていかがですか。

藤井 私は20年前、前職の高校教師の時代から教員の働き方の改革とかを唱えてきました。当時は誰にも相手にされませんでしたが、10年くらい遅れてやっと世間でも認知されてきたかなと感じています。

 (取材2023年1月)

 「教師の天職相談室」

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