入間市の製茶業、「極茶人」とも呼ばれる比留間嘉章さんは、日本茶の欧州市場の開拓に取り組んでおり、このほどフランスのパリで開かれた日本茶コンクールで最優秀賞を受賞した。比留間さんといえば、地元の手もみ茶の保存・振興に長く関わり、現在は全国の振興会の会長も務める。手もみとともに、茶葉を萎らせて香りを高める萎凋(いちょう)技法に取り組み、今力を入れているのは萎凋香のほうじ茶だ。手もみ茶という伝統技法の保存・練磨、萎凋という新しい製法・新しい味、そして海外市場の開拓と、日本茶の次の世界に挑戦する比留間さんにお話をうかがった。
10年前から海外から注文が
―最近、パリで開かれた日本茶コンクールで受賞されたのですね。
比留間 今年の1月、「ジャパニーズ・ティー・セレクション・パリ」(主催:ユーロジャポンクロッシング)という日本茶コンクールの玉緑茶部門で、私が作った釜炒り茶「まがたま」が最優秀賞をいただきました。
―これはどのようなコンクールなのですか。
比留間 フランスあるいは欧州で、日本茶がどのように認知されるか、どんなし好があるのか、市場調査と広報のような意味で実施している催しです。毎年開いていますが、少しずつ出品点数も増えてきて、だんだん進化していくのではないでしょうか。
―比留間さんは以前から海外にお茶を出しているのですか。
比留間 10年ぐらい前から、海外のお客さんから直接メールが来るようになり、様々なお茶の直接販売を結構しています。おそらくSNSのようなもので広がっているのではないでしょうか。ネットショップみたいのがあるのでそこから注文してくる方もいれば、商品リストを送れというメールが来ることもあります。
フランス人は日本文化に興味
―大震災の影響はないのですか。
比留間 震災の原発事故の影響で1年くらいは出荷できませんでしたが、その後、戻りました。
―どこの国が多いのですか。
比留間 やはりフランスです。5年くらい続けて日本茶のキャンペーンでパリに行っていますが、パリの人たちは日本の文化が好きというか、興味を持っていて、その中で日本茶に関心があり飲みたいという動きがあります。
萎凋の強度を上げられるようになる
―比留間さんは、以前から萎凋(お茶の葉が萎れる時、香りの成分が揮発しやすくなる性質を利用して、お茶に様々なストレスを与えることで香りを引き出すという製法)に力を入れていましたが、現状はどうですか。
比留間 その後だいぶバージョンアップして、萎凋も強度を上げることができるようになり、今ほとんどのお茶が萎凋をさせたものです。強い萎凋をさせたお茶を原料にして新しいタイプのほうじ茶を作ったり、そういうもので次の世界を開こうかと考えています。
―萎凋の強度を上げると味も変わるわけですか。
比留間 萎凋は花の香りをめざす人が多いですが、もっと進んだところもやりたい。花の香りのほか、果物の香り、蜜の香りだったり、より高く多様な香りが出せれば。
ほうじ茶が面白い
ほうじ茶
―ほうじ茶とはどうして。
比留間 最近の方は、渋味とか苦みが苦手な方が多いので、そういう方にはほうじ茶が向くと思います。その中で強度をあげた萎凋を使った原料を使ったより香りの高いほうじ茶が面白いのではと、そこに力を入れています。
―茶葉は何を。
比留間 ほうじ茶にするのは主に埼玉の品種です。
入間市の手もみ茶保存会は全国手もみ茶品評会産地賞14連覇中
―手もみ茶は。
比留間 手もみ茶はずっと続けていて、その後県の会長をやり、今は全国の手もみ茶振興会の会長をやっています。近年手もみ茶も皆さんに認知されて、注目されてきて、もちろん、そのためにこちら側としては積極的に発信をし続けているわけです。最近は海外でも手もみ茶を販売していただいています。
―入間市の手もみ茶保存会は健在ですか。
比留間 今、全国手もみ茶品評会産地賞14連覇中です。
後継者は家族にこだわらない
―お年は。
比留間 62歳です。
―後継者は。
比留間 息子が跡を継いで続けていければよいですが、私自身は、家の中で後継者を作らなければいけないという強い気持ちはありません。元々製茶は自分が父親と一緒に始めた。他のお茶屋さんのように歴史があるわけではありません。他の方たちに伝えれば十分に伝わっていくでしょうし、逆にこれだけ日本茶の消費が減ってきて、その中で全部の茶業者がこれから生き残っていくことはできないので。
工房
(取材2020年4月)
「東上沿線物語」第5号(2007年9月)より
こだわりの手もみ茶、萎凋茶
「極茶人」と呼ばれる 比留間嘉章さん (入間市)
狭山茶の本場入間市の加治丘陵で製茶業を営む比留間嘉章さんは、「極茶人」と呼ばれる。全国手もみ茶品評会では一等賞の常連、香り高い「萎凋茶」など、こだわり、極上のお茶作りを目指している。最近話題を呼んだTBSのドラマ「夫婦道」では、お茶に関る指導を任された。
―元々出身はこちらなんですか。
比留間 そうです、代々お茶の栽培を。私が家に入る時に親父と一緒に製茶業を始めた。
―自分なりのやり方をとったのはいつから。
比留間 もちろん、やるからには良い物を造りたい気持ちがあったんですが、最初は親父からみれば遊び半分にしか見えなかったかもしれない。やっぱり親父がいなくなってから変わりましたね。
―比留間さんのお茶を、一般の人向けにご説明頂けますか。
全国手もみ茶品評会で日本一
比留間 自分が今、一生懸命やっているのは、まず手もみ茶。入間市は、手もみ茶が非常に盛んなんですよ。保存会の会長をしているんですが、この10年間で全国手もみ茶品評会で6回日本一の団体賞を取っているんですね。
―手もみというのは減って来ていた訳ですね。
比留間 機械化が進み必要がなくなった時代があったんです。自分に近いか年下の後輩達が、昭和50年代、保存会に青年部を作り始めたんですよ。今入間でメンバーは34名です。
―手もみ茶の工程は。
比留間 最初に蒸すんです(「蒸し」)。次に「葉振るい」というのがあります。空気に触れさせて表面に付いた水分を取る。その後に、「回転揉み」というのが、軽回転と重回転と2通り、焙炉と呼ばれる道具の上でやるんですけども。
―揉んで水分を取る。
比留間 そうですね、揉み出した水分を下からの熱で気化させる。あとは「中上げ」をし、「仕上げ揉み」工程をとって、最後に焙炉の助炭の上に広げて乾燥するんです。
―全部手でやる。
比留間 そうです。五感を集中させて。
―時間的には。
比留間 乾燥まで入れると6、7時間になりますね。僕が一日頑張って、製品で300㌘しか出来ないですから
―熟練がいるんですか。
比留間 もちろん、手もみ茶と呼べるだけのクオリティを持った物を作るのは非常に技術がいりますね。
―手もみ茶はお茶としての味がどう違うのか。
比留間 簡単に言うのが難しいですけど、まろやかと言ったらいいのか、奥行きがあると言ったらいいのか。
―値段的には。
比留間 一般に販売できるだけの量が無いんですよ。全国の手もみ茶振興会に出品された物を入札販売会で落札して来て販売するんですけども、3㌘単位であったり、10㌘単位であったり。
―高い物だとどの位。
比留間 一番高い物は3㌘で5千円ですね。これはもう日本一のお茶ですので。3等入賞茶で10㌘6百円位からあります。
ストレスを与え香りを引き出す
―別に、「萎凋茶」という茶をお作りになっている。
比留間 お茶には、花や果物のような、萎凋香と呼ばれる香りがあり、香りを強調した製品を作りたい思いがあるんです。
お茶の葉が萎れる時、香りの成分が揮発しやすくなる性質を利用して、お茶に様々なストレスを与えることで香りを引き出すという製法があるんですね。半発酵茶の製茶では一番重要な部分なんですけども、これを煎茶の製造にも取り入れ、オリジナルの機械なども作ってやっている所なんです。
―半発酵茶ではないんですね。
比留間 煎茶なんです。微発酵煎茶という呼び方をしてますけども。「清花香」、「香美人(シャンシャン)」という商品で出しています。
―お値段的には。
比留間 「清花香」百㌘で1600円ですね。「香美人」は品種により30㌘千円から50㌘千円まであります。
―広く出されてるんですか。
比留間 自分のとこでしか売ってないですね。
埼玉県の品種を
―次の段階は。
比留間 2つをもっとレベルアップして極めたいということがありますね。もう一つは埼玉県で育成された品種を使っていきたい。埼玉県の品種は非常に香りに特徴がある物が多いので。今日本全国で70数%が「やぶきた」という品種なんですね。
―埼玉県の代表的な品種は。
比留間 一番多いのは「さやまかおり」。「香美人」は「ほくめい」、「むさしかおり」、「ゆめわかば」。
―「極茶人」(ごくちゃにん)と呼ばれている。
比留間 実はテレビチャンピオンという番組に出た時に「極上茶仕掛人」という名をいただいたことから、周りの方達が「極茶人」と。そんなに悪い呼ばれ方じゃないなというのがあるんで。
―お茶入れる時の注意を。
比留間 手もみ茶はとにかく低温でじっくりですね。萎凋茶は高温でさっと入れるという。
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