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農業をしながら そばを打つ 越生町 玄家

越生町の梅林から黒山三滝に向かう道から、少し入った山あいにそば店、玄家がひっそりと建つ。経営する桑原哲也、満紀夫妻は、田舎暮らしがしたいと、25年前に浦和(現さいたま市)から移り住んだ。普段は近くの田畑で耕作をし、週末(金土日曜)に店を開く、「半農半そば」の毎日だ。自然と触れ合いながら生活する、ユニークなライフスタイルについて、桑原哲也さんにお聞きした。

黒山三滝に向かう途中、右に行くと龍穏寺、左に
入ると玄家が

田舎暮らしにあこがれる

―このお店はいつから開いているのですか。

桑原 1995年です。今年の5月でまる20年たちます。

―地元の出身ですか。

桑原 違います。その5年前に、浦和から越生に来ました。家内は外で働いて、私は百姓を5年ほどしていたのですが、百姓だけでは生活が難しいこともあり、そば屋をやることにしました。

―どうして越生に来たのですか。

桑原 田舎暮らしがしたいという要望からです。

―越生を選んだのは。

桑原 家内が以前、八百屋主催の越生の梅もぎのツァーに参加したことがあり、お世話になった農家の人に、「どこか住むところがありませんか」と聞いて紹介していただきました。とりあえず引越して来て、それから近所の農家で土地を貸してくれるところを探しました。

―農業の経験はあったのですか。

桑原 ありませんでした。

―どうしてそば屋を。

桑原 そばが好きで、趣味で打っていました。上に「けとばし山」と呼んでいる小さな山があり、当時、原爆の図で知られる丸木位里さんの妹さんで絵本作家の大道あやさんと、丸木俊さんの弟さん、雨龍さんが住んでいました。そこのイベントで、頼まれて打ったりしていて少し評判になりました。

―お店の建物は

桑原 建てました。土地は「けとばし山」の雨龍さんの所有でした。傾斜地ですが、気に入り、譲っていただきました。

―家の前が田んぼですか。

桑原 これからの季節なら、水が入り田植えがされ、大きくなり収穫まで、目の前で動いていく。前たんぼでよかったと思います。

―「玄家」とはどういう意味ですか。

桑原 ここの地目が「原野」だったんです。それに玄そばの「玄」を当てました。

自家製野菜で「金曜セット」

―今は、平日は農業、週末(金、土、日)はお店を開いているわけですね。

桑原 2足のわらじです。

―農業はどんなものを作られているのですか。

桑原 今は田んぼが中心で3反あり、畑が1反です。作物はなんでも手当たり次第作っています。いまだに試行錯誤ですが。

―出荷はしているのですか。

桑原 していません。

―店の野菜として使われている。

桑原 店で使う野菜は、基本的に自家製です。自分のところで採れたものを出したいという思いがあります。メニューに野菜を使う「金曜セット」がありますが、自家製を食べていただくため始めました。土日はお客さんが多く、対応し切れないので金曜だけにしています。

金曜セット

―そばは作らないのですか。

桑原 昔は作っていましたが、今はないです。

―それでは、そば粉はどこから。

桑原 長野の塩尻と新潟の津南、北海道の2ヵ所、それと越生のNPOが作っている地元のそばも入れています。5ヵ所くらいですね。

香り重視の田舎そば

―こちらのそばの特徴は。

桑原 荒引きで、香り重視でしょうか。田舎そば。外の皮を取らないで、そのまま引きぐるみのそばです。

―人気のメニューは。

桑原 今は十割、二八関係なく、オロシそばがよく出ます。大根オロシとバラ干しの海苔がついています

―そばの味には自信があるわけですね。

桑原 なかなかです。そば屋をやって、不器用だということを思い知らされました。

やっとここに来て、そこそこ満足なものが出来始めたかなと。長くやるしかないです。

―経営はどうですか。

桑原 最初のころが一番よかったです。バブルの勢いが続いていた。それから経済情勢が悪くなり、外食の店の数が増えているためでしょうか。デフレで安い店が中心になっていますし。

―農業とそば屋さんと、ユニークなライフスタイルですね。

桑原 割とよいスタイルだと思っています。野菜を売って百姓だけで生活するのは大変ですから。現金収入を得る方法を持ちながら農業をやるのは1つの方法だと思います。新しく農業を始める若い人たちが、考えてもよいと思います。酪農やってアイスクリームを売るとか、農家レストランとかいろいろやり方はあります。

上谷の大楠の存在感に圧倒される

―苦労は何ですか。

桑原 朝が早いことくらいでしょうか。4時起きですから。あまり苦労はありません。

―おいくつですか。

桑原 昭和28年生まれです。

―出身は。

桑原 生まれは兵庫県の日本海側です。うどん文化なんですが、子供の時に近所のおじさんが打ってくれたそばが、強烈な印象で。それ以来、そば好きになりました。

―埼玉にはどうして。

桑原 大学の関係で来ました。ここに来るまでは10年間、印刷工をしていました。

―越生で気に入っている場所はどこですか。

桑原 上谷(かみやつ)の大楠(クス)が一番おすすめかな。前に立つと、巨大さと存在感、歴史の長さに圧倒され、小さなことに悩まずおおらかに生きようという気にさせられます。あとはハイキング道。越生駅を降りて、バスに乗らなくても、すぐに山に入れますから。

桑原さんご夫妻

(2015年3月取材)

 

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