雑本

 私は病気後遺症もあり重い本を読む力がない。読む本は、主に軽くて薄い、雑本の類だ。このところ、家族の入院もあり、合間時間の雑本読書が増えたが、いくつか非常に面白い本に巡り合った。
 その第1は、『運気を磨く』(田坂広志、光文社新書)。著者の田坂氏は原子力工学を専門とする工学博士で、いわゆる運気というものを科学的に解明し、それを引き寄せる方法を論じている。我々の意識の奥深くには、人が「神」、「天」、「大いなる力」などと呼ぶ超時空無意識の世界「ゼロ・ポイント・フィールド」が存在し、そことつながることで良い運気が引き寄せられる。そのためには、人生の習慣、解釈を改め、覚悟を定め、心の姿勢を根本的に転換しなければならないというもの。
 「ゼロ・ポイント・フィールド」は仮説ではあるが、神秘の分野に科学的に切り込んだ。内容は緻密で説得力がある。私は浅学ながら同様の問題意識の本は多く読んできた方だが、この本は過去の言説、自らの経験など合わせ、突き詰めており、私から見て真実に近づいているように思える。本来とても「雑本」に分類されるような内容ではない。
 第2は、『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(本川裕、日本経済新聞社)。著者は統計データの専門家で自ら「統計探偵」と名乗っている。本欄訃報で紹介した故赤羽隆夫氏が「景気探偵」を名乗ったのと似ており、統計データの検証で真実を発見しようというもの。表題になっている「男子の草食化」について、いつ頃から何を原因として起きているのかという疑問を抱き、日本生産性本部の「新入社員『働くことの意識』調査報告書」という調査にたどり着く。同調査から草食化は2000年以降進んでいることを確認。さらに草食化は、日本人のたんぱく質摂取量と相関して推移してきていることを発見する。
 完全に因果関係が解明されたわけではないにしても、可能性はかなりある。誰も注目しなかったデータからこのような推論を導くのは実に見事である。世の中には様々な統計があり、その中には貴重な情報が眠っていること、着眼と推理によって、新しい発見が可能なことを教えてくれる。
 第3は、『木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(北原みのり、講談社文庫)。同書は、2012年に単行本で出版され、13年に文庫化、さらに17年に改題された。木嶋佳苗は、ネット上で知り合った中高年の男性から大金を詐取、3件の殺人で起訴され、2017年に死刑が確定した。本書はその裁判の傍聴記だが、犯行の経過が克明に記され、事件の真相がうかがい知れ、非常に興味深い。2009年に発覚した最初の事件現場が私の家の近くであり、一連の犯行の舞台になるのも板橋とか池袋、東上沿線であった。著者の北原氏は女性であり、被告に共感を持つ部分もあったようだが、確かに被告には能力とある意味での魅力があったのだろう。しかし平然と嘘をつき人を殺す人となりは恐ろしい。高齢になっても女性を求めてしまう男のわびしさ、切なさと女性(女性に限らないが)のこわさを思い知らされる本だ。
 以下、『老後に住める家がない』(太田垣章子、ポプラ新書)、『籠池家を囲むこんな人たち』(籠池佳茂、青林堂)、『独ソ戦』(大木毅、岩波新書)も面白い。
 出版不況と言われる中、あるいはだからこそか、面白い本は次々と出ている。関係者の努力に感謝したい。雑本読みは、老後の趣味として悪くない。
 ちなみに私が、これらの本を仕入れる、お気に入り書店の第1は、御茶ノ水駅前の丸善である。病院に近いこともあるが、相性がよく、興味とマッチする本との出会いが多い。次が、紀伊国屋書店大手町店。古くなると、amazonで古本を買う。

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