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ほんとうはこわい歯周病  予防・治療には生活習慣の改善が必要で 糖尿病など全身の病気との関連  吉田美昭先生に聞く

歯周病は年を取るとほとんどの人がかかり、今歯科医院は患者であふれている。その治療や予防には医師による適切な処置に加え、歯磨き習慣など日常生活の見直しが欠かせない。また歯周病は糖尿病などの全身疾患と相互作用があり、場合によっては命に関わるこわい病気だ。永年歯周病治療に取り組んできた吉田美昭(みのり)先生にお話をうかがった。

吉田美昭(みのり)先生 昭和26年東京生まれ。専門は歯科口腔外科。40年以上医学部附属病院に勤務後、現在は和光市のなかむら小児歯科医院で診療。歯周病治療の他、大学病院での医科と歯科にまたがる経験を活かし、合併症を持つ患者の診療にも取り組んでいる。

吉田美昭先生

歯周病とは

歯を支えるいろいろな構造物、歯肉、セメント質、歯槽骨、歯根膜を総称して歯周組織といいます。歯周病は歯周組織に生じる総括的な疾患のことです(図:歯の断面)。

歯の断面

歯のある動物(哺乳類)は必然的に歯周病になります。人の罹患率は80%以上と言われ、年齢が高くなるにつれ罹患率は上がります。若いときからジワジワ進むので、早くからの予防措置は大事です。歯周病は予防可能な生活習慣病という捉え方です。完全に予防することは難しくても、進行を遅らせることができる生活習慣病です。

歯周病は大きく分けて歯肉炎と歯周炎があります。歯肉炎が最初に起きる。歯肉炎が進行すると歯周病菌が歯周組織を破壊して歯周炎が起きます。歯周炎は昔、歯槽膿漏と呼んでいました。

歯周病は初期には自覚症状はありません。病気になっていることを気づかない。だからサイレントディーズ(静かな病気)と呼ばれます。進行すると痛みとかいろいろな問題が起きてくる。

歯周ポケット

口腔内にはたくさんの細菌、ウイルスがいます。共に暮らす常在菌です。歯周炎の原因菌は酸素を嫌う嫌気性菌です。嫌気性菌は、歯の表面よりは奥まって酸素の行き届かないところ、歯周ポケットに繁殖、生息します。歯と歯グキの境目のところにある溝が深くなったのが歯周ポケットです。歯肉炎の時は歯周ポケットというより歯肉溝と呼びます。それが深化して歯周炎になり歯周ポケットと表現します。

歯周炎の症状

歯周炎の症状は、①歯が浮いたような感じがする、②歯肉が腫れる、③歯磨きの時に出血する、④歯肉(歯周ポケット)から膿が出る、⑤口臭がする(嫌気性菌は代謝をする時にガスを出し口臭の元になる)、⑥歯と歯の間に食べ物がつまる(歯を支えている組織がゆるむため)、⑦歯肉が下がり歯が長くなったように見える、⑧歯がグラグラしてくる(モノが噛めなくなる)、⑨終いには歯が抜けてしまう。

歯周病の原因

歯周病の原因は、第1に、局所の問題として歯垢(デンタルプラーク)。口腔内の常在菌とそれが作り出した代謝産物の塊が歯垢。炎症の原因です。食べカスではありません。歯磨きで食べカスも取りますが、同時に歯垢を取ります。歯垢が古くなると、唾液中のカルシウムやリンなどが沈着して歯石という硬い組織になって歯ブラシではとれなくなります。これが歯の表面にも、歯と歯グキの境目そして歯根にもつく。

第2に、全身的な原因としては、糖尿病、高血圧、ステロイド治療など、免疫不全があるがあると進行が速い。

第3に噛み合わせ。一般的にはあまり取り上げられませんが、実際には噛み合わせが悪くて歯に悪いストレスがかかり歯周炎を助長します。歯並びが悪かったり、歯ぎしり、食いしばりをするとこの悪いストレスとなります。マウスピースを入れるのはこの対策になります。

第4に喫煙。ニコチンは末梢循環、血液の巡りを悪くする。歯周組織への酸素の供給が十分でなくなる。それから白血球の中で特に細菌と戦う好中球の機能が落ちる。喫煙者の場合末梢循環が悪いのであまり出血がない。出血しないので気づくのが遅れ、喫煙者の場合手遅れになることがある。喫煙は歯周炎の大きなリスクファクターの一つです。僕もずいぶん多くの患者さんにたばこをやめてもらいました。

 歯周病の検査

一般的に行うのは、歯周ポケットの計測。歯と歯グキの境目の溝に目盛りのついた針を入れて 深いのはどこかと見る(プロービング)。正確に歯周病の病態を把握するには歯の周り6点で見る。歯周病は歯と歯の間で始まるがそこが一番清掃できない。そこには汚れがついている。汚れは細菌の塊りです。歯石の表面は粗造(ザラザラ)であり、細菌、プラークがつきやすい。そこをきれいに取って歯肉がピタッとつくようにしてあげます。

いくら歯磨きしても、歯磨きでポケット内が掃除できるのは2ミリまで。だから歯磨きだけだけで歯周病をある時期から改善することは難しい。やはり歯石を取って、根の表面をきれいにすることが必要です。

歯肉炎なら回復できる

歯肉炎と歯周炎は段階によって分けられる。歯肉炎は歯肉だけに炎症があり歯磨きで元の健康な歯肉に戻れる。子どもの時から歯磨き指導して生活習慣を正せば健康な歯肉を維持できる。

歯周炎は進行が不可逆的

歯周炎は進行が不可逆的です(図:歯肉炎と歯周炎)。歯が生えてしばらくは歯頚部で歯肉は歯の表面のエナメル質に接着している。ところが口腔細菌による炎症で接着が壊れて歯肉溝となります。さらに炎症が進み歯頚部、歯根の表面、さらに歯根膜、骨へと炎症が及ぶ。骨が壊されてポケットが深くなる。エナメル質と歯根の境界より下方に溝が深くなると歯周ポケットという言い方になる。

歯肉炎と歯周炎

ポケットの中にいる細菌と歯頚部の上にいる細菌とは種類が違う。上の方は酸素が豊富なので好気性菌、ポケット内は酸素が届かないので嫌気性菌。嫌気性菌は酸素がない方が増える。嫌気性菌はいろいろな毒素を出して周りの組織を壊して自分が棲みやすい環境を作る。その時に骨も一緒に壊してしまう。こうなると積極的治療しないと自然治癒はありません。結果歯を失い歯周炎は治癒することになり体は救われるわけです。トカゲのしっぽ切りになりますがもう歯は生えてきません。

歯周炎の治療

歯周炎の治療

治療にはまず歯周組織検査。歯周ポケットを計ってどこが悪いのかなどを調べます。それから口腔衛生指導。その人がどの程度磨けているのか磨けていないのか調べて歯磨きを評価して、正しい口腔衛生の指導して生活習慣を変えるためのアドバイスをする。

歯周病を改善させるためにまずは歯磨きです。歯磨きをしてプラークを取り除く。しかしいくら細い歯ブラシを使っても2ミリしか歯周ポケットには入らない。歯周ポケットの下の方には届かない。2ミリしか入らなくても一生懸命磨くと腫れが収まり、歯周ポケットは少し浅くなる。また歯ブラシをするとさらに浅くできる。

初期の歯周炎では歯磨きと歯石をとることだけでかなり改善できます。スケーリング=歯石を取ること。ジャーッと水が出てくる機械(超音波スケーラー)を使い、刃のついた道具で根っ子の表面についた歯石を削り取る。

ルートプレーニング

歯石を取った後に再び歯周組織検査をしてどのくらい良くなっているかを見て、さらに治療が必要であれば次はルートプレーニング。根っ子の表面についた歯石の残りと凸凹をきれいに削り取り歯肉の病変部を掻爬する。これは麻酔をしないと痛い。歯肉がペタッとつき、ある程度骨の再生もできます。これらにより歯周ポケットが浅くする。浅くなると歯周病菌は住づらくなり少なくなって歯周炎は治まります(図:歯周病の改善)。

歯周病の改善

ここまでが歯周炎の基本的な治療でそれでもよくならないときは外科治療をする。ポケットが4ミリ以上ある場合には、通常の処置では改善しないことが多い。

歯周外科手術

麻酔をしてメスで歯肉を切開し剥がして、取り切れていないものを取って、根面をきれいにする。骨が壊れて肉芽があれば削り取り、骨を整形して傷口は縫い合わせる。

根っ子の先まで骨が壊れている重度の歯周炎は歯を保存できません。この場合には抜歯をして義歯を入れたりブリッジしたりして噛む機能を回復する。

噛み合わせの治療

それから噛み合わせの治療。噛み合わせが悪く余分な力が及んでいると、歯周炎を助長する。かみ合わせの調整は大変重要で歯を残すためには必須の治療です。食いしばり、歯ぎしりのある人にはスプリント療法と言ってマウスピースを入れて咬み合わせの負担を軽減する。

人間以外の動物は歯周炎になると最後に歯が抜けてしまう。一般に野生動物は歯が抜け落ちて食べられなくなり、さようなら。人間は少し賢くて予防、治療など管理をして保存することができる。義歯やブリッジで食べることもできますが、歯がないと美味しく食べられず、食べ物も偏ります。歯はあった方がよいと思います。特に和食を楽しむためには。

今、歯周病患者が増えているのは、治療して抜かないで自分の歯を長いこと残している人が増えているからです。歯も長寿になったということです。

歯周病はそれ自体こわい病気ですが、近年はそれだけでなく全身に関わる病気という認識が出てきています。歯科医を選ぶにも、歯周病の治療はもちろんですが、それだけでなく口の中全体を管理してくれるか、全身のことを把握しているかどうかを考えた方がよいでしょう。

心内膜炎

歯周炎がこわい理由の一つとして感染性の心内膜炎との関連です。これは、心臓の内膜に細菌が取り付いてイボみたいなものができる。歯周炎により血液中に細菌が入りそれで原因不明の発熱をしたり、心内膜に炎症を起こしてイボのようなものができそれが何かの拍子にポンと切れて飛び脳梗塞などを起こす原因となる。

心内膜炎の原因として歯周病菌など歯垢の中の細菌のことがあるのです。弁膜症などの心臓病のある方は歯科での慎重な管理が必要です。一方で歯科処置をすると菌血症を起こし、心内膜炎につながる可能性があります。ただ歯周炎があると歯磨きや食べ物を噛んでも菌血症が起きる。基礎疾患のある方は注意が必要です。

歯周炎と血管病疾。最近言われているのは、心筋梗塞など致命的な心臓病と関係が深いということ。また血栓が足の動脈につまり足が壊死するバ-ジャー病は歯周病菌の中の悪玉菌が原因となることがあります。これは特に糖尿病があると起きやすい。

 歯周病と糖尿病

糖尿病は歯周病に影響する。これは皆さんよく知っていることです。つまり糖尿病であると感染に対する抵抗力が下がり歯周炎が悪くなる。これは白血球の機能が低下、コラーゲンというタンパク質の代謝異常が起き、末梢の循環が悪くなる。化膿しやすくなり、歯周炎が悪化する。一方で最近は歯周炎が糖尿病に影響すると言われている。歯周病を治療すると血糖値が下がる。糖尿病を改善するためにも歯周治療をした方がよい。

歯科治療における糖尿病の問題点

昔は糖尿病の患者は見れないという歯医者さんが結構いました。それは化膿しやすいから。歯周病の歯は抜くしかないというお医者さんが多かった。糖尿病の人は傷の治りが悪い。時々あるのは、低血糖の発作を起こすことがある。それと合併症が多い、高血圧、心血管系障害、腎臓病等。合併症が多いだけにいろいろな薬を飲んでいる。血圧を下げる、血をサラサラにする、血が固まりにくくする、心臓病の薬等。こういう薬を飲んでいると、歯周病治療だけでなく麻酔がうちにくいとか、歯科治療は難しい。

私は糖尿病のコントロールが良好なら健常者と同じように抜歯しても問題はないと考えています。でも糖尿病でもちゃんと管理をすれば歯を抜くことはなかなかありません。

定期的管理の必要

生活習慣病である歯周炎は完全に治癒するということはない。定期的な管理が必要で、でないとすぐ再発する。今回のコロナの問題でちょっとブランクを空けると悪くなっている。ただ、同じような治療をしてあげると元の状態に回復できる。歯周病がある人は、最初の基本的治療が終わってこれで大丈夫となったらだいたい3ヶ月置きには通院し定期的に管理をした方がよい。血糖のコントロールが難しい方は、間隔を短めにした方がよいでしょう。

日常生活でできる口の健康管理

歯を残すのが我々歯科医の仕事です。しかしそこには患者さんの歯を残したいという気持ち、生活習慣を変えるのに積極的だということがないと、お互いが一生懸命やらないとゴールには着けません。

まず基礎疾患の治療をしっかりやること。それから検診を定期的に受け、適度な運動をし、規則正しい生活する。

口腔ケアとしては、まず歯磨きです。

歯磨きはできれば食べた後に3度やるのがよいが、1回なら大事なのは寝る前です。歯ブラシの選択は、いろいろ言われたが、今は比較的やわらかい小型の歯ブラシで、持ち方は筆を持つようなペングリップで、力を入れないで、ストロークの短い横磨きがよい。1回に3分とか5分長めに、全体をまんべんなく。ポケットの中に歯ブラシの先が入るように優しく磨く、コチョコチョ磨き。

歯周炎がある人は歯間ブラシを使った方がよい。歯肉炎だけの段階だと歯間ブラシでかえって歯肉が下がってしまうことがあります。歯ブラシが届かないところは 小さいポイントブラシというのがある。それと舌磨き。口臭予防には効果的です。

歯ブラシでも歯間ブラシでもフロス(糸)でも、痛いのはダメ。痛いのは方向が悪いわけです。昔はかたい歯ブラシが推奨されたが、磨きすぎて歯や歯グキを痛める。今は柔らかいブラシで時間をかけるのがよいとされている。歯磨き時に歯肉出血は炎症があると誰でも起きる。出血があるということは歯肉に炎症があり、腫れていて弱くなっているということ。数日適切に磨いていれば出血はしなくなります。

大事なことは歯科医院で歯科衛生士さんに歯ブラシの使い方が正しいか評価してもらうこと。1回評価して正されても何ヶ月かすると自己流に帰っちゃうので定期的に管理指導を受けることが必要です。

食生活では、やわらかいものばかり食べていると、歯の表面が擦れずプラークが停滞しやすい。歯ごたえのあるものをよく噛んでゆっくり食べることです。

「歯周病に負けずよく噛んで楽しく食べて 健康 COME 噛む」

(取材2022年7月)

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