新河岸駅から約1キロ、川越市砂新田の住宅街にひっそりと建つ「まざあ・ぐうす」。手作りの創作カレーは、徹底してスパイスを工夫した衝撃の味だ。経営する峰尾雅彦さん(81)、雪江さん(83)ご夫妻にお話をうかがった。

以前は学習塾を経営

―このお店はいつごろからですか。
峰尾雅彦 25年ほど前。そのころは学習塾とカレー屋と両方やっていました。
―元々は塾を経営していたのですか。
峰尾雅彦 会社勤めに行き詰まりまして。
―カレーが好きでカレー屋さんに。
峰尾雅彦 そういうことではなく、世の中の学習塾のあり方が僕のと合わなくなってきてかなり経営が傾いたんです。彼女が喫茶店みたいなものをやりたいと言うので、じゃあ仕方がないと。自分のできる手伝いというとカレーを作るくらいしかない。友人にカレー屋のおばさんを紹介してもらい、スパイスの香りとか味とか1年がかりで教えてもらった。そこから始まった。
スパイスの研究を重ねる
―それからご自身で研究された。
峰尾雅彦 まったくの素人だから何から始めていいかわからない。スパイスの種類は一応わかったんですが、配合の仕方がわからない。そのおばさんにどうしたらよいかと聞くと、それはあんたの勝手よと。本を1冊くれまして、読んで作ってそれでモノにならなかったやめなさいと。


最初にやったのは、スパイスを2種類ずつにまとめて混ぜてどっちのスパイスも勝たない中立の味は何対何でできるか、クミンとコリアンダーなら何対何と。それが1年か2年くらいかかりましたか。その間も店は開いているわけですから、お客さんに今日のカレーはどうですか、親しい友人に頼んで毎日食いに来てもらって。カレーは言ってみれば失敗はない。味がちょっと足りないとか、ちょっと苦すぎるとか、そういう時は別のスパイスを加えれば直っちゃう。そういうことをだんだん体で覚えて、最初の5年くらいはお客さんからお金をいただいて勉強したという感じですね。その頃から値段は変わっていないですが、当時としては相当高いカレーでしたね。
―普通ならここまでは徹底しないと思います。
峰尾雅彦 気が小さいのとしつこいんですね。昔から先生と言われる人にモノを教わるのがきらいで。
有名店のカレーはこわくて食べられない
―他のカレー屋さんを参考にはしないですか。
峰尾雅彦 いまだに有名店のカレーはこわくて食べられない。大学の頃に湯島にデリーというカシミールカレーの店があり、ものすごくうまかった。そういえば店を始めた当時の目標はデリーのカシミールみたいな香りが高いカレーを作りたいという思いはありました。
―これからまだ追求しなければいけないことがある。
峰尾雅彦 作ったカレーはお出しする前に自分で味見をして、自分としてはまあまあだろうと思うんですけど、うまいと思うのはお客さんです。お客さんの味覚だから、中にはこれは自分には合わないからもう来ませんとおっしゃる方もいらっしゃいます。それはそれで仕方がないし、自分には勉強になります。
一つのカレーで15から20種類くらいのスパイス、パプリカが好き
―スパイスの種類はどのくらいあるのですか。
峰尾雅彦 数えたことはないですが、一つのカレーで15から20種類くらい使います。
―他にはないスパイスもあるのですか。
峰尾雅彦 特にはないと思います。ただ好きなスパイスがあり、それはどのカレーにも使います。それと一番最初に勉強して、このスパイスをこれと合わせるには何対何とノートに全部書いてありますから、20年間やってきて気に入ったスパイスを使うとして、これならこれはどれ位と。
―何が好きですか。
峰尾雅彦 パプリカが好きなんです。あとはコリアンダー、フェネグリークなど。
―複雑な味は薬膳のようです。
峰尾雅彦 意識したことはないですが、よく言われます。漢方というのはスパイスですから。
―この味を後に伝えていけたらと思いますが。
峰尾雅彦 実は来年の夏から週末の3日は娘に店を任せることにしています。ただ娘は娘の味があるので。
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手作り絵本と縄文焼き
―店内に展示してある絵本や焼きものはご自分で作られたものですか。
峰尾雪江 そうです。絵本は子ども達(息子の有紀=ゆうき=さん、娘の理紀=まさき=さん)の成長を描いた手作り絵本です。店より早く40年くらい前からやっていました。

―焼きものは。
峰尾雪江 縄文時代の焼き方がベースです。七輪で焼きます。

―店は25年前にやり出したらご主人のカレーが評判になったわけですね。
峰尾雪江 最初金融機関に何か食べるところ作らないと貸してくれないと言われて、カレーだったら大丈夫と。最初は2人でパパカレー、ママカレーと出していたのですが、ちょっと軒下を貸したつもりなんだけど母屋を取られちゃった。
―カレーの種類は。
峰尾雪江 今は10種類です。
―何カレーとうたっているのですか。
峰尾雪江 彼が勝手にスパイスを調合して、何種類も混ぜ合わせて一個作り、また混ぜ合わせて一個作り、新しいカレーを作っちゃう。創作カレーですとしか言いようがない。
―住宅街でわかりにくいが評判でお客さんが遠くから来る。
峰尾雪江 おいしいと言っていただけます。若い人も年配の人も、一度テレビに出てからいろんな方がいらっしゃる。うちではほとんど宣伝はしていないんですけど、皆さん撮影されてSNSで出してくれます。
(取材2025年12月)
