調べ物があって、雑誌の図書館である大宅文庫を訪れた。大宅文庫は京王線の八幡山駅から徒歩圏にある。八幡山と言えば、駅前に広大な敷地の都立松沢病院がある。日本最大級の精神病院である。私は最近、『狂気という隣人』(岩波明、新潮文庫)という本を読んだ。精神科医である著者の体験を綴っているが、松沢病院の苛酷な現場、八幡山の町の様子も出てくる。それで今回は病院に注意して歩いた。駅のすぐ前から赤堤通り左側に、病院の緑が続く。正門を過ぎたあたり、右手に大宅文庫の建物が現れる。大宅文庫は大宅壮一の自宅の跡に開設された。


八幡山は開設時は松沢という駅名で当時の乗降客は主に患者の家族や見舞客だったという。昭和12年に八幡山と改称、大宅壮一が居を構えたのは昭和19年。たまたまだったのかもしれないが、私は病院の真ん前を選んだことに彼の人柄と意思を感じる。大宅文庫はネットの普及もあり一時存亡の危機が伝えられたが、クラウドファンディングや「パトロネージュ」という支援の仕組みが軌道に乗ったのか、検索もコピー依頼も以前と同じように安価な料金で親切に提供されていた。八幡山の駅前も、しゃれた店が並び、「すぎ」というカフェでいただいたパンケーキが非常においしかった。

