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農業を障害者の働く場に 農園を企業に賃貸、採用も支援するエスプールプラス すでに850名が就労

一般就労を望む障害者と障害者雇用を拡大したい企業。両者のニーズをマッチさせ成長している企業がある。東証ジャスダック上場エスプール(本社東京)グループのエスプールプラスだ。同社は、障害者を雇用する農園を企業に貸し出すというビジネスを展開、農園は10ヵ所、障害者雇用数は850名に達した。障害者雇用の場を求める自治体から誘致される例も出ている。エスプールプラスの和田一紀社長に、同社の取り組みについて聞いた。
(取材2018年2月)

雇用機会に恵まれない人の雇用創出が企業理念

-ビジネスの概略を教えていただけますか。

和田 エスプールグループは、エスプール社を持ち株会社とし、東証ジャスダックに上場、従業員はグループで600名ほどです。グループのミッションの1つが、雇用機会に恵まれない人の雇用創出を支援すること。その中には障害者やシングルマザーやシニアもいますし、社会人経験がなく、フリーターとして働く若者など。そういう方々のために仕組みを作って世の中に提供していくのが、基本的な考え方です。現在、グループ会社は5社あり、エスプールプラスは、障害者の就労支援事業を担い、2010年に創業しました。

-エスプールプラスのビジネスは具体的には。

和田 簡単に言うと、企業向けの貸し農園を運営させていただいています。企業は、弊社が貸しだす農園で直接障害者を雇用します。また、雇用場所の提供だけでなく、障害者の採用・教育から定着支援まで、障害者の就労支援全般を支援する仕組みになっています。

-企業単独では障害者を採用するのがなかなか難しいという背景があるわけですね。

和田 障害者を一定数以上雇用しなければならないという法律があり、その雇用率が2%から今年の4月には2.2%に上がります。その時自分の会社で障害者に働いてもらう仕事が創出しにくいという状況があります。農業をやるとしても、企業が農園を見つけ、指導者を見つけ、障害者を募集するのは相当な手間がかかります。我々はすでにノウハウがあり、企業が農園で障害者を雇うと決めれば、すぐに参入できます。このスピーディ感が、企業には喜ばれています。

-農業は障害者の仕事として向いているということですか。

和田 昨今言われていますが、農業はメンタル的にも障害者に向いているのは事実だと思います。

最低賃金が適用される一般就労、月10万円の収入

-いわゆる就労支援事業(継続支援、移行支援)とは異なるのですか。

和田 障害者でも生活面で自立できるような雇用を生んでいくのが我々の考え方です。福祉的雇用ではなく全て一般雇用です。知的障害者の方でも、週30時間働き、最低賃金以上の賃金が支払われます。一般的には、就労支援の事業所で働いても月1万5000円もらえたら御の字ですが、当社の農園で働く皆さんは、基本的に10万円以上の賃金を得ています。

-今、農園は何ヵ所あるのですか。

和田 今、10農園を運営しております。「わーくはぴねす農園」という名称で千葉県に9ヵ所、愛知県に1ヵ所。今年も3ヵ所ほど新設する予定です。

-愛知県の例は、行政と連携されたのですか。

和田 去年、愛知の豊明市という行政と組んで、農園を開設しました。我々が農園を開設し、豊明市が障害者に声がけしていただき、コラボレーションして作ったのが豊明の農園です。今、行政と連携する取り組みを強化しています。

-今、10ヵ所の農園でどのくらいの障害者が働いているのですか。

和田 参画企業が今163社あり、働いている障害者が851名です。2011年に農園を立ち上げて以来の定着率は95%に達しています。

-障害の種類は。

和田 ほとんどが知的障害者、特に重度の方です。最近は精神の方も増えています。

-企業はどのような。

和田 大手企業中心で、そのほとんどが上場会社で、1社あたりの雇用人数の平均は6人以上、多く雇用している企業は20人単位くらいで、農園をご利用していただいております。

-企業は特例子会社などを作って、障害者を雇用するのですか。

和田 企業が障害者を直接雇用します。たとえばA社が3人を雇用したいということなら、それ合った広さの区画を、お貸しします。それぞれの会社のカラーがあり、農園の外観などからもそれがわかります。

シルバー管理者300名も雇用

-障害者を指導する管理者はどうするのですか。

和田 農園を利用する企業に管理者も直接雇ってもらいます。その際、高齢者から成る「シルバー管理者」を私どもから紹介します。現状、障害者850人に対し300人くらいがシルバー管理者です。この仕事は、シルバーの方に向いていると思います。障害者のめんどうをみるということで、子育てに近く、結構やりがいをもってできるというので人気があります。企業には、障害者とシルバーの雇用を同時に生み出していただいているわけです。我々は、定着支援のアドバイザーや、農業技術指導者、農園を管理する管理者を常駐させて、側面のフォローをしています。

-農産物栽培の方法は。

和田 我々は土を使わず、大型のハウスを建て、農林水産省が開発したフィールド養液栽培という農法を使っています。土を使うと、耕運機を運転する必要などが発生し、障害者にとってリスクが高くなります。養液栽培は、軽石を使っているので障害者が気になる砂ぼこりもたたず、清潔で安全に運営できます。管理棟や冷蔵庫などハードは全部我々が所有し、企業に借りてもらう。我々は土地のレンタル料をいただくという形です。

-どんな作物が。

和田 できる野菜は40種類くらいあって、障害者のレベルに合わせて作るものも変えていけます。ホウレンソウや水菜などの葉物やトマトなど、メロンを育成する企業もあります。

-作物は販売するのですか。

和田 元々は野菜を販売して収益を上げるモデルを考えていましたが、なかなか難しくて、今は社員食堂の材料に活用したり、社員の健康を促進するために、美味しい野菜を従業員に配布して食べてもらう福利厚生プログラムに変えています。農園で働く障害者は、納期に縛られず仕事に取り組め、また、従業員は美味しい野菜を受け取ることで、自社の会社の障害者がどのように頑張っているのかが分かり、障害者に対する理解も高まります。最近は、障害者の顧客にどう対応してよいかを学ぶため農園で研修を行う企業もあります。

仕事が楽しければ、やりがいに

-障害者も様々で、働くのに向かない人もいると思いますが。

和田 誰でも就職できるわけではありません。まず私どもが、保護者を対象に説明会を開き仕事内容を丁寧に説明した上で、障害者のお子さんに農園実習に参加していただき、適性を判断させていただきます。農業への適性だけでなく、通勤ができるかとか、話していることが理解できるかなど、総合的に判断し、合格した方を企業に紹介しています。不合格になった方も、何が足りなかったのかをきちんとお伝えして、再度チャレンジできるようにしています。

-精神障害者は難しくありませんか。

和田 元々は知的障害者向けに農園を始めましたが、急増している精神障害者の雇用場所の提供も必要だと感じ、現在、少しずつ増やしています。精神障害の方は人間関係が難しいのですが、向き合うのが野菜なので、一般の会社には戻れなくても、ここでは続く方が多い。精神障害の方に向いたスキームでもあると思います。

-どのような障害者に一番向いていると思いますか。

和田 知的障害者はコツコツやる仕事が向いているとかよく言いますが、主観ですが、そんなことはなくて、楽しいか楽しくないか、ではないでしょうか。お金がほしいから我慢するとかの感覚はあまりない。だから、楽しいことならやれる、ことを重視しているから定着している面があると思います。自分の手で野菜は育っていくし、おいしいものを作れる、見極めの力、技術も上達する。さらに、「おいしいものをありがとう」と、社員から手紙をもらったり、料理の写真が送られてきたり反響が返ってくる。努力の結果を評価される喜びは、やりがいにつながります。

千葉県以外へも展開へ

―今後の展開は。

和田 今まで千葉県中心でしたが、次は神奈川県、埼玉県にも開きたい。すでにいくつかの行政からお話をいただいています。ぜひ、東武東上線の沿線でも農園を開設したいですね。

-障害者問題に対して。

和田 障害者の雇用場所を創りだすという点では、当社も一定の貢献が出来ていると思います。今後は、障害者に対するネガティブな雰囲気を、明るく、おしゃれなものに変えたいと考えています。弊社も、ダウン症者のファッションショーに協賛したりしていますが、障害者が堂々と表に出ていけるような社会へ貢献できればと思います。

-エスプールグループとして、社会的に不利な人向けの事業は他にどんなものがありますか。

和田 子育てをする主婦やシングルマザーが効率よく働ける雇用方法を創出したり、大手企業で活躍したシニアと、中小企業やベンチャー企業をマッチングするプロフェッショナル人材バンク(顧問派遣)という事業も進めています。

-和田社長はリクルートのご出身ですか。

和田 リクルートから米国のフリーペーパー企業の経営に関係した後、日本に戻りエスプールの浦上壮平社長と出会い、この事業に強く共感し2011年のエスプールプラスの創業期から携わっています。

和田社長

和田社長

(取材2018年2月)

2020年6月川越に農場開設

エスプールプラス社ホームページ

「障害者問題を考える」(リハビリ編)

 「障害者問題を考える」(施設編)

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