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健康を高める 正しい入浴法 40度で10~15分、 全身浴

早坂信哉東京都市大学教授に聞く

 

お風呂に入ることは健康によさそうだが、どのように健康に働くのか。健康効果を高めるにはどのように入浴すればよいのか。長年、入浴の健康効果を研究してきた温泉療法専門医、早坂信哉東京都市大学教授によると、入浴には温熱作用など7つの健康作用があり、毎日10~15分、40度程度のお湯に全身で浸かることが望ましい。毎日お風呂に入る習慣が日本人の長寿に貢献していると指摘する。

早坂信哉(はやさか・しんや) 温泉療法専門医、博士(医学)。東京都市大学人間科学部教授。1993年、自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。自治医科大学大学院医学研究科修了後、浜松医科大学医学部准教授、大東文化大学スポーツ・健康科学部教授などを経て現職。(一財)日本健康開発財団温泉医科学研究所所長、(一社)日本銭湯文化協会理事、日本入浴協会理事。著書に『最高の入浴法―お風呂研究20年、3万人を調査した医者が考案』(大和書房)など。

入浴は温熱作用など7つの健康効果

―先生は入浴が健康によいと訴えられています。

早坂 私は、入浴こそ一般の人が実践できるもっともすぐれた健康法だと申し上げています。

―入浴はどのように健康を高めるのでしょうか。

早坂 様々な健康効果がありますが、第1は何と言っても温熱作用(温め効果)です。温熱によって体が温まれば、血管が拡がり心臓の動きが強くなり血流がアップします。血流が増えることで体の隅々まで血液が行き渡り、体がすっきりしリフレッシュします。また温めることで神経の過敏性を抑え、神経痛などの痛みを抑え、肩こりをほぐす効果もあります。

そのほか、
静水圧作用:お湯の水圧によって全身がマッサージされたような状態になり、血液の流れがよくなりむくみも解消されます。

浮力作用:お湯の浮力で体が軽くなり筋肉や関節をゆるめて緊張をとります。

清浄作用:皮膚の表面を洗い流すことで、有害な物質や微生物、不要な皮脂などを除去します。

蒸気・香り作用:蒸気の湿り気は鼻やのどの粘膜の免疫力を高め、また洗面器にお湯を張りアロマオイルなどをたらせば自律神経の調整に役立ちます。

粘性・抵抗性作用:水中で体を動かすことは陸上より負荷がかかり、手軽な運動療法効果が得られます。

開放・密室作用:浴室は裸で入る非日常的空間で心と体が開放的になるリラックス効果が得られます。

入浴で幸福度が高まる

―お風呂に入れば実際に健康が増したというデータがありますか。

早坂 私たちは2012年に静岡県の6千人の住民を対象に調査を行いました。その結果、毎日お風呂に入る人は、毎日入らない人に比べて、幸福度の高い人の割合が約10%高いことがわかりました。毎日お風呂に入ることで、心身の健康が高まり、幸福になれるということです。

シャワーだけ、半身浴では体温が十分に上がらない

―お風呂の入り方で注意することは何ですか。

早坂 疲労回復という目的でお風呂に入る場合を考えてみます。まず大事なのはお湯に浸かるということです。シャワーだけですませると、体温も十分に上がらず、静水圧や浮力の効果も得ることができません。

―半身浴を推奨する人もいますが。

早坂 半身浴では重要な温熱作用が半減してしまいます。静水圧作用も浮力作用も全身浴の方が大きく、基本的には全身浴をおすすめします。半身浴に特筆すべき健康効果はありません。

―お湯の温度は。

早坂 温度は40度がよいと考えています。人によってはちょっとぬるいかなと感じる温度設定かもしれません。この温度は幅広い年齢層・体力層にとって低リスクで、10~15分くらいの入浴時間でも十分体が温まります。

―時間は10~15分でよいのですか。

早坂 長く入らなければという気負いは必要ありません。10~15分で大丈夫です。これくらいの時間で心身に大きな負担をかけることなく、しっかりと体が温まります。

硫酸ナトリウムは血流アップ

―入浴剤は入れた方がよいですか。

早坂 硫酸ナトリウムは血流アップ、疲労物質除去効果があります。また泡が出る炭素系入浴剤は血管を拡張させて血流を改善させます。

入浴は就寝の1~2時間前

―よく眠れるような入浴の仕方はありますか。

早坂 お風呂自体に睡眠の質を各段にアップさせる効果があります。お風呂に入れば、入らない場合に比べてよく眠れるわけです。その際注意することは、〇心身とも興奮した状態を抑え自律神経のスイッチを副交感神経優位に切り替えておく、〇入浴は就寝の1~2時間前にすます、〇夕食後1時間程度休憩してから入浴する、ことです。

―風邪をひいた時の入浴はどうでしょうか。

早坂 以前は風邪にお風呂はよくないとも言われました。確かに湯冷めは風邪を誘発・悪化させる原因となります。しかし湯冷めしにくいお風呂事情になった近年は風邪の時入浴しても問題がないとの意見が主流になりつつあります。私は、お風呂の作用で体温が上がれば免疫システムが強化されますし、風邪のウイルスは湿気に弱い性質もありますので、風邪の時も体温が37.5℃未満で体調が悪くなければお風呂は入ってOKという意見です。

「毎日入浴」で日本人が長寿に

―入浴が健康によいとするなら日本の風呂文化が日本人の健康増進に役立っているということでしょうか。

早坂 そうです。世界で毎日のように湯舟に浸かる習慣を持つ国は日本だけです。日本は世界トップクラスの長寿大国ですが、平均寿命がぐんと伸びたのは高度経済成長期で「毎日入浴」という習慣が日本人の健康を増進し長寿に貢献したと考えられます。

―日本人は昔からお風呂によく入っていたのですか。

早坂 自宅に浴槽を持つのは戦後の高度成長期になってからですが、江戸時代には銭湯がよく利用され、温泉に関しては古くから人々の生活に密着していました。

温泉の健康効果

―温泉も健康によいわけですね。

早坂 日本書記には、舒明天皇(593-641)が有馬温泉に滞在したという記述があります。昔から人々は温泉は健康によいと考えてきました。温泉の健康効果は、病気療養法として世界的に認知されています。

―温泉の選び方を教えてください。

早坂 温泉の中でも一定の成分を含む療養向きの温泉を療養泉と言い、単純温泉、塩化物泉など10種類に分類されています。効果が期待される症状(適応症)は共通のものもありますが、泉質別に異なる特徴があります。日本は世界に冠たる温泉大国。温泉のガイドブックやネット情報などでお自分に合った温泉を選ばれるのがよいと思います。

―銭湯、あるいは近年増えているスーパー銭湯はどう利用すればよいですか。

早坂 私は温泉が大好きですが、銭湯も大好きです。いわゆるスーパー銭湯もインテリアやサービスなど様々な工夫がこらされ、興味がつきません。入浴法としては、まずかけ湯から入り、刺激の弱い湯から順に刺激の強い湯に入り、最後は刺激の弱い湯で終了するのがよいでしょう。

入浴を医学的に研究

―早坂先生は入浴について専門に研究されているのですか。

早坂 私は医師ですが、現在は主に大学で研究や教育に従事しており、お風呂に入った時の健康効果の数値化など、入浴を医学的に研究しております。これまで延べ3万8000人の入浴を調査してきました。

―先生はどうしてお風呂の研究を。

早坂 20年ほど前、私は宮城県も海沿いの小さな病院で地域医療に従事していました。たとえば血圧がいくつまでなら安全にお風呂に入れるのかという質問があっても、当時は研究がなされておらず答えられませんでした。その後、大学院で研究する機会を得た時、この分野に取り組みたいと申し出て指導教授の了解を得、私のお風呂に関する研究が始まりました。

(本記事は、2020年4月、早坂先生の著書『最高の入浴法―お風呂研究20年、3万人を調査した医者が考案』(大和書房)の内容に、インタビューを加えて作成しました)

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