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利用が5年で10万時間を超す ふじみ野支え愛センター

ボランティアが高齢者の困りごとを助け、少しだけ謝礼を受け取る、支え合いの仕組みは、全国各地で試みられている。中でも、ふじみ野市のNPO法人ふじみ野明るい社会づくりの会が運営する「支え愛センター」は、利用料が1時間当たり300円という破格の低さ、設立以来5年で利用時間が10万時間を超すという利用度の多さで、注目を集めている。北沢紀史夫代表理事にお聞きした。

あなたのいい顔みたい

-NPO法人ふじみ野明るい社会づくりの会とはどんな組織ですか。

北沢 1981年に任意団体として設立され、今年で35年になります。不特定多数の市民を対象としたボランティア活動を展開しています。

-対象はふじみ野市民ですか。

北沢 私たちは行政の区画でなく、生活圏域ということで、対象者を考えています。利用者は、川越からも富士見市からも来られます。

-どのような活動ですか。

北沢 他人への思いやりを主とした活動。「あなたのいい顔みたい」が、私たちの共通する目的です。

-具体的には。

北沢 今、皆さんによく知られているのは、料理教室です。毎月第3土曜日に開きます。元々お父さんの料理教室だったのですが、女性から抗議が出まして誰でも参加できます。さらに、せっかく教えてもらったのだから、お裾分けしようと翌々日の月曜日に食事会を催しています。一人暮らしの人に呼びかけ、20~30人集まります。料理する人も20~30人。10年続いています。当初は場所の確保も大変でしたが。

-食事会はおいくらで。

北沢 食事会は3品で300円です。最初は無理かなと思いましたが、10年続いています。食材というのは固定費みたいなもので、10人分でも40人分でもそんなに変わらないんです。また、この活動を知ったさいたま市のNPOが米を寄贈してくれるなど外部の支援もあります。今は、行政も広報、会場など優先して支援してくれる事業になっています。老人は、個食や、一人ぼっちにすることでウツが進むと言われ、こうした会はウツや認知症の防止に役立つというわけです。

-作る人は。

北沢 料理教室の先生は一流の人ばかり。そこで習った人が、食事会の指導者になります。元気な高齢者は朝から来て、一緒に料理してもらいます。元気のない人は出来上がったのを食べにくる。料理に参加する人は、会費500円。自分たちの料理を作って高齢者の喜ぶ顔を見ることができる、それがプラス200円です。料理も作る人が半分、食べにだけ来る人が半分です。

-他の活動は。

北沢 資源回収、主に古新聞の回収で赤字補填のための資金源です。癒しの集いは、文京学院大学の力添えで、高齢者が集まって楽しく過ごします。

-医療相談室という事業もあるのですね。

北沢 関東逓信病院の部長にお願いしまして、同病院の「医療と健康よろず相談室」というインターネットサイトで相談できます。回答は11名の専門ドクターが行います。

付き添いと掃除の利用が多い

-「支え愛センター」はいつから。

北沢 2010年に会の設立30周年で会員にアンケートを行い、「お困りごとは何ですか」と聞いたら、病院や買い物に行くのに付き添いがいないとか、体が動かないので家の中を掃除してほしい、草むしりができないとか、身近な支援を求めていることがわかりました。それで、支え愛センターを立ち上げて、今5年になります。総利用時間数が10万時間を超えました。

-どのようなしくみですか。

北沢 利用者は、以前は利用券(1時間300円)を買って依頼する形でしたが、わざわざ事務所に買いにこなければいけません。今は、電話で依頼を受けると近くのボランティアさんに行ってもらい、現金300円をいただくしくみです。ボランティアはたまったお金をこちらに持ってくると、600円に対し500円分の商品券を受け取ることができます。

-商品券にする理由は。

北沢 地域の商店の振興という目的です。商品券は、商店会、ヤオコー、ガソリン(出光)から選択できます。

-ボランティアの数は。

北沢 登録は340名ほど。ただ、普段稼働してくれているのはその3分の1です。

-依頼する人は初めてでもよいのですか。

北沢 電話一本でOKです。生活圏域内であれば、ふじみ野市民でなくても。

-行政からの補助は。

北沢 当初は県からの補助金がありました。今は、市に事務所を提供してもらっています。それでも、NPOは1時間あたり50円の収入しかありません。それでできるのは自分でも不思議です。

-これだけ低い値段は珍しいのではないですか。

北沢 NHKをはじめ全国から取材を受けましたが、珍しいからだと思います。

-なぜ低料金が可能なのでしょう。

北沢 料理教室をやって、料金設定を3品で300円にしましたが、300円でも年金生活の彼らにとっては有り金をはたいている感覚なのです。

うちが何とか回っているのは一つは10万時間の利用があるからです。埼玉県でほとんどの市で同様の取り組みをしていますが、料金は平均600円前後で、平均月140時間の利用だそうです。140時間では運営できません。

また、うちの事務職員は手弁当です。皆さんの真心で支えてもらっている。ふじみ野市はやさしい人が多いのです。

-依頼される困りごとで多いのは。

北沢 付き添いです。なぜかと言うと、福祉タクシーという制度がありますが、玄関で下ろされて終わり。ところが、病院の中は安全ではありません。受付の前で倒れるかもしれない。トイレへ行く時も見守ってほしい。会計も手伝ってほしい。買い物、市役所、銀行も一緒です。付き添いは、今の制度の欠落部分です。

掃除も多い。介護保険では、寝たきり老人の掃除は寝室だけです。一番汚れるトイレと水回りは対象になっていないのです。いわゆるゴミ屋敷は起きるべくして起きているのです。

-依頼者は、継続する人が多い

北沢 今、定期的に訪問している方は40名います。

-依頼者も、ボランティアもすべて高齢者ですか。

北沢 このボランティア活動に参加している人は60歳以上が76%を占めています。利用者は60歳以上が92%です。他の8%は、若い人ですが、病人、障害者、子供さんの見守りとか。安いから頼むというのはお断りしています。

-車を使う場合は。

北沢 社用車を補助金で買っており、それを使います。市内で車を使った場合は、プラス300円をいただいています。

ボランティア活動を次世代につなげたい

-今回、「ボランティア大人塾」という講座(2016年1月~5月)を開かれました。

北沢 ボランティアが不足しているから募集するということが本音です。同時に、「高齢者が高齢者を支える」から一歩進んで、支えあいの仕組みを次世代につなげてもらいたい。この点に関し、ふじみ野市教育委員会がバックアップしてくれて、小学校の正規の授業の中で支え愛事業の講義を計画しています。

-ボランティアになる条件は。

北沢 うちは申し込まれたら拒みません。

-今後の計画は。

北沢 次世代につなぐこと。それと、まだ活動を知らない方が多いですから、多くの方に知っていただき、参加していただきたい。今回姉妹組織として、NPO法人仙台支え愛サポートセンターが立ち上がり、4月から活動します。全国に広がってくれればうれしいです。

-北沢さんの経歴を。

北沢 私は2004年に、頼まれて3代目の会長(現代表理事)になりました。元々NTT出身ですが、55歳で退職し、一般財団法人日本医薬情報センターというところに勤めています。医療のIT化のための標準病名のデータベース作りをやっています。

-ご出身は。

北沢 滋賀県彦根です。20代から上福岡(現ふじみ野市)に移り、今年で75歳です。

(取材2016年2月)

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